2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年5月24日

 したがって、このような中間的な人物の存在を共産党・政府が重視し、率直な現状批判・不満に真摯に耳を傾け、少数民族が置かれた構造的な苦境を少しでも改善すれば、それだけでも自ずと緊張は緩和されるはずである。たとえ自由で民主的な体制でなくとも、少数派エリートの建設的な意見をそれなりに尊重し政策に活かすとすれば、必ずしも悪い政治体制であるとは言い切れない。

 しかし中国共産党は、新疆生産建設兵団に象徴される漢民族中心の巨大利権構造にメスを入れるどころか、それを温存して一層富と資源が偏在する方向を選んだ。ラビア・カーディル氏に限らず、中国の国内外で中国を批判する人々は、必ずしも最初から独立運動を唱えていたわけではなく、あくまで中国共産党・政府の善処を期待していたのであった。それが叶わずむしろ逮捕・投獄などの恐怖にさらされたため、止むにやまれず独立と自由を求める声を上げることになったのである。

日本は中国と少数民族の和解を促すべき

 以上、ウイグルの人々が置かれた苦難の連続をざっとみてみたが、ひとつ結論としていえるのは、かつて日本が中国をはじめアジア諸国に行った「日本中心の近代化に無条件で従い、日本人が利権の中心にいることに不満を上げざること」の強要を、中国がそのままウイグルをはじめ国内の非漢語少数民族に対して行っているという生々しい現実である。

 しかもそれは日清・日露戦争によって刺激され、当時の日本(そして帝国主義列強一般)のやり方をコピーしただけのものである。中国が「自国領内で兄弟民族に対して善意で行っていることであり、列強の圧迫とは全く異なる」という説明は、そもそも漢字文化と「中国」に魅力を感じない人々に対して何の意味もない。中国が抗日した以上、同じ論理を振りかざす中国が少数民族からの「抗中」に直面するのは当たり前すぎる成り行きである。

 日本がもし真摯に日中関係を追求するのであれば、中国がかつての日本と同じ轍を歩むのは好ましくないということを中国に気づかせるために声を上げ、中国と少数民族の和解を促すことが望ましい。これは「粗暴な内政干渉」どころか、かつての帝国主義を反省し平和を希求する国家・国民として当然のことなのである。

 この道理が理解出来ず、中国の宣伝を真に受けるような政治家を、我々は厳しく選別するべきであろう。また、それを受け容れられない中国は、所詮戦前の日本帝国主義と同じ心理を共有しているに過ぎないのであるから、即刻「日本の歴史認識批判」なるものを止め、むしろ日本軍国主義を賛美するのが良かろう。

[特集] 中国によるチベット・ウイグル弾圧の実態

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