2024年4月26日(金)

ルポ・少年院の子どもたち

2016年1月20日

その道を究めた本物だけが持つ重み

心肺蘇生のデモンストレーション

 「わたしは先輩たちから『院生たちには本物を教えてくれ』と言われてきました。おふたりの話を聞いて、本物の強さを感じましたし、その道を究めた方たちの言葉はとても重く、彼らの胸にも深く突き刺さったことと思います。寮に戻る院生の顔を見ていましたら、そう感じました。きっと人生の指針になってくれると思います。人は出会う縁によって変わります。それは彼らも同じで、こうした縁があって、成長していくのだろうと思います」

また、「院生の中には真剣に勉強して、高卒認定試験を受けて大学に進学し、人生をやり直そうとしている子がおりますので、年齢の近い大学生たちは現実感のある良いお手本になるはずです」と水府学院の亀井裕之次長は手ごたえを感じていた。

 2015年に開催された2度の「タグラグビー交流マッチ」に参加し、今回は見学者して訪れたロータリークラブの責任者S氏は次のように語った。

 「講義の中にありました『愛する人を守れますか』という言葉ですが、彼らには一番大切な自分を愛するという気持ちがなかったために、こうした施設にいるのだと思います。

 自分を大切にするということは、周りの人のことも大切にするということです。他者を理解し、他者を愛し、そのうえで愛する人を守れるのです。そこまでいくと人は何のために生きるのかとか、何に生かされているのか、に思いが至るはずです。そうなってはじめて「人のために役に立とう」と思えるようになるのだと思います。

 こうした講義は、すぐに効果は表れないかもしれないが、タグラグビー交流マッチも今回のライフセービング講座も、知識や経験をもった専門家が、熱い思いを持って、まっすぐに真剣に彼らと向き合うことの意義は計り知れません。今日の講義を聴いた何人かの胸には、しっかりと残っていくと思います。いつか、今日の『修了証』を見ることがあれば、あの時の先生はこんなことを言っていたな、と思う時があるでしょう。きっと彼らの人生に活きてくる日が来ると思います」

育った環境の中にある犯罪の種

人形を使った実技講習

 回数を重ねても植木と北矢は、院生に何を伝えるべきか毎回葛藤があると言う。両氏は被害者がいることも忘れてはいない。北矢は、「寒いばかりの世の中でないことを伝えて、頑張ってたくさん勉強して、しっかり反省して、社会に出て来てほしいとエールを送ることしか今の私にはできない」と院生たちに臨んでいる。

 その院生たちは両親の離婚や家庭崩壊、機能不全の環境の中で、幼い頃に虐待やネグレクトを経験していたり、仲間からいじめを受けていたケースがかなりの割合でいると聞いている。また、周囲には相談する大人がなく、またモデルとなる健全な大人たちと接する機会も少なかったようだ。

 周囲の人間関係といえば、歪んだ上下の繋がりであったり、金銭や暴力がからんでいることも少なくない。逆に近年では人間関係が希薄で、家庭や友人から孤立し、バーチャルな世界が居場所というケースが増えてきている。

 もちろん一人ひとり背景が異なるため、一概には言えないが、少年たちが育つ環境の中に犯罪の種があることは誰も否定しないだろう。

 そういった点から見ると、直接心肺蘇生法の指導を受けるライフセービング部員たちは、年齢も近いため、院生にとっては少し先を行く具体的な良きモデルとして写っているのかもしれない。

 現に部員たちに声を掛けられ、励まされるうちに院生たちの表情が生き生きと明るく変わってくるのを見た。


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