2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月14日

 今回のトルコ軍による北部シリア侵攻は、昨年来よりエルドアン大統領が追求してきた対IS、対PKK戦同時遂行の必然的な発展です。特にシリアにおけるクルド系(PYD)の勢力伸長に相当な危機感を持つに至ったことがうかがわれます。

オスマン帝国の栄光

 この論説は、今回の侵攻を含め、エルドアン大統領による最近のトルコの対外政策を、オスマン帝国の歴史的栄光への回帰を指向する底流と関連付けて論じています。エルドアン大統領およびAKPによる対外政策は、当初は近隣諸国との友好を維持し経済関係の強化等によって地域のバランサーとしての役割を果たし、同時にトルコの経済発展を図るというものでしたが、シリア内戦、イラクの政治的混乱とトルコ国内政治の波乱(選挙における敗北と復権、今回のクーデター未遂等)が情勢を大きく変えました。

 しかし、トルコの周辺地域への介入強化、影響力強化の動きはオスマン帝国の再現というような積極的、意図的な政策と言うよりも、エルドアンの政策(主に国内政治的考慮により打ち出された)の正当化のための一つの論調であるとともに、トルコ国内の一種の政治的懐古的ムードを表したものに過ぎないように思われます。

 エルドアン大統領は対IS戦と対PKK戦を同時に進める政策を遂行してきていますが、第一の目的はPKKの殲滅であり、今回の侵攻も本論説が指摘するように、PKKと近い関係にあるシリア・クルド(PYD)の勢力拡大を防ぐことが最大の目的でした。今後はユーフラテス西岸地帯を中心に一定の地域を一種の緩衝地帯として確保し、PYDの領域拡大を牽制するものと見られますが、シリア北部における有志連合の対IS掃討作戦を複雑なものとし、米国との調整をどうするか大きな問題となる可能性が大です。同時に、シリアへの介入度を深めることはトルコ国内の治安情勢をより不安定なものとするとの懸念も、論説の指摘する通りです。

  
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