2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月14日

 10月6日付の米フォーリン・アフェアーズのサイトで、トルコのシリア北部侵攻について、Ryan Gingeras米海軍大学院准教授が、トルコの行動を、オスマン帝国への回帰を指向していることと絡めて論じています。要旨は以下の通りです。

シリアはオスマントルコの一部だった

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 8月のトルコ軍による北部シリアへの侵攻は、トルコ・シリア国境地帯におけるイスラム国(IS)拠点の壊滅とシリア・クルド(PYD)の封じ込めという二つの目的を実現するというトルコの安全保障にとって極めて重要な作戦であった。

 この作戦については、米ロの支持を受けたとはいえ、政治的にも現実面においても懐疑的な見方がある。今回の侵攻が益々強まりつつあるエルドアン大統領の権威主義指向から目をそらそうとする試みであるとの批判や未遂に終わった7月のクーデター事件の首謀グループとされるギュレン派軍人の大規模な粛清の中で行われたことも理由である。他方、シリアがオスマン帝国の一部であったという過去の事実によって、侵略ではなく寧ろ恩恵をもたらす解放であるとの見方も一部にある。

 トルコの近代の対外政策は必ずしもオスマン帝国の歴史を肯定するものではなく、世俗的な国益を重視したものであったが、エルドアン・AKP政権の成立以来、オスマン帝国の過去の栄光を再評価し、現代の地域政策を正当化する論調が広まっている。

 しかし、このような傾向は地域の安定にとって重大なリスクがある。特にシリアにおけるクルド系住民・組織(PYD)の意見、トルコとの関係の歴史についての見方である。

 PYDがRojava(シリア・クルディスタン)としている地域は、過去においてクルド公国の中心部を形成し、その後オスマン帝国時代にトルコにより併合され、多くのクルド人、アルメニア人住民が殺害された。この記憶は未だ強く残っている。

 多くのシリア・クルド人にとってはISよりもトルコの方がより大きな脅威であり、トルコがオスマン帝国の栄光をかざして北部シリアへの介入を強化すれば、クルド、PYDの激しい抵抗を招き、PYDとの直接的な軍事対決を惹起し、同時にトルコ内における不安定化と動乱に発展する可能性がある。

出 典:Ryan Gingeras‘Ottoman Ghosts’(Foreign Affairs, October 6, 2016)
URL:https://www.foreignaffairs.com/articles/turkey/2016-10-06/ottoman-ghosts


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