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2017年1月24日

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木村正人 (きむら・まさと)

ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任。2012年独立。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)

 バルト三国と同じようにドイツとロシアに挟まれているポーランドでは大多数がトランプ勝利に驚いた。ロシアに対する宥和政策をほのめかすトランプより、プーチンに非妥協的な民主党候補のクリントン前国務長官の方が安心できたからだ。

 ポーランド国際問題研究所(PISM)のアナリスト、ヤシナ氏は「トランプは当選後、ポーランドの大統領に電話で『ポーランドと米国の協力は前進していくので、どうか安心してほしい』と伝えた。これまでの合意に何の変更もないという話だった。トランプは、NATOの加盟国はもっと負担をと主張してきたが、ポーランドは十分な負担をしている」と話す。

 この電話でポーランドの恐怖心は少し和らいだ。しかし大国外交に振り回されてきたポーランドは米露だけでなく、仏露、独露の間で交わされる首脳同士の会話に常に聞き耳を立てる。ドイツのメルケル首相がモスクワに行ったり、プーチンがベルリンを訪れたりしている間は、ポーランド人は眠れないというジョークさえある。

 NATOは16年7月、ポーランドの首都ワルシャワで首脳会議を開き、バルト三国とポーランドに4000人の多国籍大隊を展開することを決め、NATO軍の常駐態勢を整えた。ロシアの西部軍管区6万5000人、南部軍管区7万5000人に対抗できる兵力ではないが、NATOの集団防衛を発動する「仕掛け線」としては十分と言えるかもしれない。

 後ろには1万3000人から4万人に増強したNATO即応部隊が控え、このうち5000人は48時間以内に展開可能だ。

 ヤシナ氏は「ロシアはカリーニングラードに核兵器75発を保有している。EUは地雷問題・対人地雷禁止条約を主導したため、国境沿いに地雷を埋めるわけにはいかない。歴史はポーランドがいかに侵略に弱いかを教えてくれる。米国とドイツのサポートなしにロシアを退けることはできない」と訴えた。

ロシアが得意とする「紛争の凍結」

 欧州との緊張を高めるプーチンの狙いは何なのだろう。キーワードは「凍結された紛争」と「影響力の境界」だ。

 15年末、モルドバの首都キシナウのホテルで偶然会った元米兵にスカイプで連絡を取った。米民間セキュリティー会社ジャガー・イーグル・フォーメーション・デプロイメント・コンサルタンツを経営するマーク・ロペス氏だ。

 9年間、アフガニスタンのNATO空軍基地やアフガン治安部隊基地を拠点に450人のスペシャリストを使って、基地のパトロールや警護、爆発物探知を担当した。現在はウクライナ東部の紛争地でウクライナ陸軍の志願兵らに戦場での応急措置、爆発物探知、市街戦、突撃戦術の訓練を施している。

 ロペス氏は言う。「トランプは『米国をもう一度、偉大な国に』と訴えるが、米国はすでに偉大な国だ。トランプはもっと大きな絵を見るべきだ。NATOだけでなく、北朝鮮の核・ミサイル問題、海賊対策、テロ対策、災害対策など、世界の安全保障は米国だけでは成り立たなくなっている。孤立主義はできない時代だ。トランプは部下のいないビジネスマンに過ぎなかったが、これから現実に向き合わなければならない」。

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