2024年4月26日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2017年5月8日

 ある意味、雑然と各界の一流のひとたちの言葉がたくさん紹介されている。箴言の宝庫だ。The best way to become a billionaire is to help a billion people.(ビリオネア(大金持ち)になる最短の方法は、10億(ビリオン)の人々を助けることだ)や、The best way to predict the future is to create it yourself. (未来を予測する最良の方法は、未来を自らつくることだ)If you can’t win, change the rules. If you can’t change the rules, then ignore them.(勝てなければ、ルールを変えろ。ルールを変えられないなら、ルールを無視しろ)、など、印象に残った言葉を拾い上げるときりがない。

 アメリカではとにかくこの種の前向き思考を推奨する自己啓発本がよく売れる。日本でも最近は同種の本がベストセラーになることがままあるが、その産業としてのすそ野も考えると、アメリカの比ではない。評者も長年、なぜアメリカ人はポジティブ思考中毒なのか疑問に思ってきた。最近、ある本を読んでその答えをみつけた気がした。『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―(新潮選書)』(森本あんり著)だ。

 同書によれば、新大陸アメリカにはキリスト教の受容と普及が独特の形で進んだ歴史があり、独自の宗教的な感性を育んだ。「つまり、アメリカ人にとって、宗教とは困難に打ち勝ってこの世における成功をもたらす手段であり、有用な自己啓発の道具である。神を信じて早起きしてまじめに働けば、この世でも成功し、豊かで健康で幸せな人生が送れることが保証されるのである。逆に、悪いことをすれば必ず神の審判を受けねばならない。」と、森本氏は指摘する。

 こうした宗教的な土壌があるなかで、自己啓発産業も発展してきた。「前向き思考を奨励する自己啓発産業も盛んであるが、これらは従来の教会が担ってきた役割を世俗化した業態のひとつに他ならない。」 という森本氏の解説にはうならされる。つまり、アメリカでは自己啓発は宗教に似た側面があるから、広い支持を得ているのだ。

  
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