前向きに読み解く経済の裏側

2017年6月5日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 アベノミクスにより景気が回復したことで、それまで失業が問題であった日本経済が、労働力不足に悩むようになりました。アベノミクスによる経済成長が僅か4.5%(年率1.1%)であったにもかかわらず、労働力が不足するようになったことで、「日本経済は労働力不足だから、もう成長できない(日本経済の潜在成長率はゼロである)」と考える人も増えてきました。

 しかし、筆者はそうは考えていません。日本経済は、労働力不足を乗り越えて成長し、経済体質が強化されていくだろう、と前向きに捉えています。今回は、労働力不足が日本経済にもたらすプラスの効果について考えてみましょう。

労働力不足は省力化投資を促す

(iStock)

 これまで、日本には失業者が大勢いましたから、企業は安い労働力を容易に用いることができました。飲食店は皿洗いをアルバイトにさせていたのです。しかし、労働力不足になりアルバイトの時給も上昇して来ると、飲食店は自動食器洗い機を購入するようになります。

 そうなれば、食器を洗っていたアルバイトが接客にまわれるので、店の収容可能人数が拡大します。労働生産性が上昇したので、従来と同じ労働力で従来以上の付加価値が生産できるようになったのです。これを日本中の会社が行えば、労働力が増えなくてもGDPが増やせるのです。

 食器洗い機だけではありません。これまで省力化投資をするインセンティブが乏しかったので、企業はあまり省力化投資をして来ませんでした。従って、いたる所に「少しだけ省力化投資をすれば労働生産性が大幅に改善する」余地が転がっているのです。

 省力化投資に限りません。企業が古い設備機械を最新設備に置き換えることで、従来より少ない人数で従来と同じ量の製品が作れるようになるケースもあるでしょう。日本企業は、儲かっても設備投資をせず、古い設備機械を我慢して使っている企業が多いので、維持更新投資によって労働生産性が大きく向上する余地はいたる所にあるのです。労働力不足が、こうした投資を促すことが期待されます。これは、日本経済が効率的になるということですから、素晴らしいことです。

 余談ですが、労働力不足がこうした省力化投資や維持更新投資を促すとすれば、設備投資が増加して設備機械メーカーが潤い、景気が一層回復するという面のメリットも期待できるでしょう。マクロ経済を考えると、労働力不足は決して困ったことではないのです。

労働力不足は一時的な現象ではなく、時代の流れ

 労働力不足が、単なる景気循環としての好景気の結果だとすれば、企業は省力化投資に慎重になるでしょう。なにしろ日本企業のマインドは景気の長期低迷で冷えきっており、多少景気が回復しても「どうせ遠からず不況が来る」と考えて設備投資をしない、という習性が身に付いているからです。

 しかし、今回の労働力不足は、少子高齢化による現役世代人口の減少が主因ですから、容易には反転しないでしょう。長時間かけて川の水位が低下してきたのが、たまたまアベノミクスという川底の石によって、人々の気づく所となった、ということだからです。

 「今後も、景気が大幅に悪化しない限り労働力不足が続く」、という予想が立てば、企業が省力化投資に踏み切ることは容易でしょう。省力化が期待できる維持更新投資についても同様です。

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