ある成年後見人の手記

2017年8月8日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 新たな住まいとなった閉鎖棟は、2階の厚い鉄扉で仕切られた空間で、中に入ったら健常者も職員に頼んで鍵を開けてもらわないと外に出られない。約30人の高齢者男女が、ピンクのジャージーを着せられ2人部屋に寝起きする。ビールが飲めなくなっただけではない。私物の持ち込みは一切禁止。タオルまで廃棄させられた。「重症者には、何でも食べてしまう方がいるので」と寺田弘子看護師(仮名)。

募る不信感、ついに弁護士解任

神戸家庭裁判所

 皆元静香弁護士らに委任して約4カ月を経た09年6月15日、やっと神戸家庭裁判所での調査官面談にこぎ着け「神戸家裁50774号(後見開始申し立て)」という事件名を得た。この場で皆元らを事実上解任した。

 由利子には計14人の血族がいることは後に判明する。彼ら彼女らから、私が成年後見人となることへの同意を得なければならないのに、皆元らは1人も取っていなかった。

 調査官の前で、私が詰問すると、「要らないと思った」と皆元。「『思った』って、法律家の言葉ですか」。もはや依頼者と弁護人の対話ではない。4カ月が空費された。書類不備もあった。由利子の名を「百合子」と誤記していた。

 皆元が、別れ際「辞任届でいいですか? 手付金の全額は返せません」と言うので、「了解。費消分は差し引いてください。ただし法外な金を取ったら懲戒申し立てしますよ」と釘を刺した。20万円余りが戻ってきた。

 4日後、兵庫県弁護士会に駆け込み、6月26日付で広末毅弁護士(仮名)に委任。メールで進展状況を知らせてくれ、信頼関係が築けた。

 ただ、それまで弁護士という職種に抱いていた畏敬は壊れてしまった。弁護士会に駆け込んだ時も60~70歳くらいの年配弁護士に聴取を受けたが、名乗らない。敬語を使わない。

 私が説明し始めると「法律相談の場じゃあない。手短に」。由利子が倒れた経緯に及ぶと「認知かあ?」。「認知症です。正確に記録してください」。病名を端折れば差別的ニュアンスを帯びかねないことすらわきまえていない。

経済負担重く消費者金融へ

 09年6月15日の神戸家庭裁判所での初回調査官面談から、筆者は由利子の成年後見人の候補に。ところが後見人になるまでは重い経済負担ばかりで権利保障は無い。メモを繰ると、私の立替払いは09年9月7日時点で81万5129円。

 由利子を入所させた有馬の奥の老人保健施設から4月17日付で5万5908円の請求書が届き、以後は毎月約10万円。これを滞りなく払う。この外に、差し引き二十数万円の弁護士料、由利子が滞納してきた後期高齢者医療保険料なども負担した。

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