あの挫折の先に

2012年8月30日

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夏目幸明 (なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。愛知県立豊橋工業高校から早稲田大学へ進学、卒業後、広告代理店に入社し、その後、雑誌記者へ。小学館『DIME』に『ヒット商品開発秘話 UN・DON・COM.』を、講談社『週刊現代』には、マネジメントの現場を描く『社長の風景』を連載。ほか、明治学院大学講師をつとめ就活生の支援を行う。『資格の学校TAC』では、就活生と一緒にエントリーシートを書き、面接練習を行う講座を持つ。
執筆記事:「社長の風景」(現代ビジネス)、「火力発電所奮闘記」(『VOICE』)、「ビジネスの筋トレ」(『フレッシャーズ』)、「就職活動セミナー」(『資格の学校TAC』)

“通話できない”というクレームが殺到

 92年、入社3年目の寺尾は携帯電話用の回線を新たに設計する仕事を任された。回線の数を増やすことで、今まで以上に電話が繋がりやすくなるよう設計する仕事だった。設計図が完成した後、工事はベテラン社員もいる現場に任せていたと言う。

 ところが深夜の切り替え作業が完了した後、「これで一段落した」と思ったその翌日の早朝から電話がどんどん鳴り響いた。そのすべてが抗議の電話だった。

 「“携帯電話の通話ができない”というクレームが殺到したんです。『やってしまった……』と途方にくれました。切替工事終了後、朝になって通信の量が増加したことで、回線が混雑したんです。状況を改善するには、全国の交換機を緊急増設し、回線の設定を変更するなど、膨大な作業をする必要がありました」

思いが通じなければ、人は動かない

ウィルコムが今年の夏に新発売した『WX01SH』。寺尾は、「操作性とデザイン性、どちらも捨てていない考えつくされた携帯電話です」と語る。

 翌朝、いったん事態は解決を迎える。寺尾の上司や現場の作業員が夜を徹して急場をしのぐための復旧工事に励んでくれたのだ。そして寺尾は、この失敗により自らの行動を省みた。

 「それまで私は、設計さえしておけば“あとは現場が作ってくれる”と考えていたのです。しかし、現場の人たちは設計図や工程表を渡しただけでは動いてくれないのです」

 現場の作業員に、間違えやすいポイント、仕事の手順、さらには、この仕事にどのような意義があり、会社にどのような利益がもたらされるのかなどを伝えなければ、思うように動いてはくれない。今回仕事を任せた現場の作業員だけでなく、人というのはサッと頼まれた程度の仕事には、それ相応の仕事でしか返してくれないのではないか。

 「さらに、顔を合わせて話すなど、皆さんが快く仕事してくれる環境を作ることも重要だと感じました。するとミスが減り、ひいては仕事の効率も上がる。人に何かを頼む時は、ただ発注するだけでなく、そこまでしなければミスは防げないのでしょう」

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