パリ同時多発テロとユートピアの不在

ISへの若者の参加とオルタナティブな世界の必要性


浪岡新太郎 (なみおか しんたろう)  明治学院大学国際学部准教授

政治学者、仏国立エクス政治学院宗教研究所連携研究員。1971年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業、立教大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程退学、日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助手、在仏日本大使館専門調査員、エクス政治学院招聘教授を経て現職。共編著に『排外主義を問いなおす』勁草書房、2015年など。

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2015年11月13日、パリ市内で同時に自爆テロを含むテロ事件が発生し、130人の死者と300人以上の負傷者を出した。テロはIS(イスラーム国)によるものといわれている。この実行犯8人のうち、5人はフランス国籍である。このホームグロウン(フランス育ち)テロリストの存在は、フランス国内でのISに対するフランス社会の警戒心をさらに強め、また、テロが対外的な問題に留まらず対内的な問題でもあることを改めて明らかにした。

銃弾の跡が残るパリのカーサノストラカフェ(Getty Images)

欧州で最多のIS参加者を輩出するフランスの憂鬱

 2015年6月に国民議会に提出された報告書によれば、フランスからシリア・イラクへと出発する者の数は特に2013年1月から急激に増加しており、1683人にのぼる。その多くはISに参加しているという。これまでもアフガニスタンやボスニア、さらにはチェチェン紛争にフランスから参加する者達は存在したが、その数の多さにおいてシリア・イラクへの出発は際立っている。また、ISには100カ国以上からの参加者が存在するといわれるが、欧州最多の参加者を送り出しているのはフランスである。

 欧州においてムスリムは何よりもイスラーム諸国からの移民出身者(いわゆるムスリム系移民出身者)と重ねられる傾向がある。現在、フランスには国民の約10%にあたる、約500万人にのぼる(主として北アフリカ諸国からの)ムスリム系移民出身者が定住している。そして、第二世代以降(以下では「第二世代」)を中心にかれらの多くはフランス国籍を取得している。

 かれらは、フランス人平均よりも学歴が低く、ムスリムと見なされることによる差別も相まって長期の失業を経験する傾向がある(平均の2倍以上の失業率)。またかれらの多くは低所得者向け団地が集中する郊外地域に居住している。こうした事実から、次のような問いが頻繁にたてられている。「かれらがムスリム系であり、フランス社会で排除や差別を経験することを考えれば、そのイスラームへの信仰とフランス社会への反感からISなどイスラーム過激派へのかれらの志向性を止めることはできないのではないだろうか」。

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著者

浪岡新太郎(なみおか しんたろう)

明治学院大学国際学部准教授

政治学者、仏国立エクス政治学院宗教研究所連携研究員。1971年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業、立教大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程退学、日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助手、在仏日本大使館専門調査員、エクス政治学院招聘教授を経て現職。共編著に『排外主義を問いなおす』勁草書房、2015年など。

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