2015年11月13日、パリ市内で同時に自爆テロを含むテロ事件が発生し、130人の死者と300人以上の負傷者を出した。テロはIS(イスラーム国)によるものといわれている。この実行犯8人のうち、5人はフランス国籍である。このホームグロウン(フランス育ち)テロリストの存在は、フランス国内でのISに対するフランス社会の警戒心をさらに強め、また、テロが対外的な問題に留まらず対内的な問題でもあることを改めて明らかにした。
欧州で最多のIS参加者を輩出するフランスの憂鬱
2015年6月に国民議会に提出された報告書によれば、フランスからシリア・イラクへと出発する者の数は特に2013年1月から急激に増加しており、1683人にのぼる。その多くはISに参加しているという。これまでもアフガニスタンやボスニア、さらにはチェチェン紛争にフランスから参加する者達は存在したが、その数の多さにおいてシリア・イラクへの出発は際立っている。また、ISには100カ国以上からの参加者が存在するといわれるが、欧州最多の参加者を送り出しているのはフランスである。
欧州においてムスリムは何よりもイスラーム諸国からの移民出身者(いわゆるムスリム系移民出身者)と重ねられる傾向がある。現在、フランスには国民の約10%にあたる、約500万人にのぼる(主として北アフリカ諸国からの)ムスリム系移民出身者が定住している。そして、第二世代以降(以下では「第二世代」)を中心にかれらの多くはフランス国籍を取得している。
かれらは、フランス人平均よりも学歴が低く、ムスリムと見なされることによる差別も相まって長期の失業を経験する傾向がある(平均の2倍以上の失業率)。またかれらの多くは低所得者向け団地が集中する郊外地域に居住している。こうした事実から、次のような問いが頻繁にたてられている。「かれらがムスリム系であり、フランス社会で排除や差別を経験することを考えれば、そのイスラームへの信仰とフランス社会への反感からISなどイスラーム過激派へのかれらの志向性を止めることはできないのではないだろうか」。