ムスリム系移民出身者≠ムスリム≠IS参加者
こうした問いはISへの参加者をムスリム系移民出身者と安易に重ねている。しかし、その参加者は1683人であり、多く見積もってもムスリム系移民出身者約500万人の中0.05%以下であり、例外的であることに注意するべきである。そしてムスリム系であるということは、かれらがイスラームを信仰することもイスラームに基づいて行動することも意味しない。2011年の世論調査機関IFOPの調査によれば、かれらの中にはカトリックやユダヤ教徒も存在するし、60%以上は規則的な礼拝を行わない。
そもそも、イスラーム諸国と比べて、政教分離を基本的原則とするフランスにおいてイスラームの教義を教育課程の中で学び日常で実践することは容易ではない。イスラームの教義を公立学校や公教育で学ぶことはできないし、私立小中高校において課外授業として学ぶことは可能であるが数は限られている(公的補助を受けるのは3校)。ほかにモスクが週末に子ども向けにアラビア語やコーラン教室を開いているが、数も少なく、その参加者は第二世代の中でもわずかである。
それでは、こうした数少ない場で幼少からイスラームの教義を学んだ第二世代がISに参加するのだろうか。実際には、今回のテロ実行犯も含めてバーの経営をしたり、イスラームの信仰に熱心とはいえないような生活をしていた若者達が、近親者も気付かない中で数週間から数年の短い時間の間にISへの関心を深め、参加していく事例が少なくない。つまり、ISへの参加者達に、長期のイスラームの教義教育が結果としてISへの参加を促す一般的傾向を確認することはできない。
また、ISへの参加の要因を排除や差別の経験に還元することもできない。過激派について研究する社会学者F.コスロカヴァールによれば、ISへの参加者には二種類のタイプが存在するという。第一のタイプは、たしかに、郊外に居住し排除や差別を経験する第二世代である。1995年の地下鉄テロ事件の実行犯であったK.ケルカルや2015年1月のテロ事件の実行犯であったクアシ兄弟、A.クリバリ、今回の実行犯の一部の事例である。
この第一のタイプは、非行や犯罪経験をもち、多くの場合、刑務所でイスラームの過激思想にふれ、アフガニスタンやシリアなどへの渡航経験を経て、最終的には聖戦の名の下にフランス社会との断絶をはかっていく。かれらにとっては排除や差別による自己劣等化の中で閉塞感を感じる際の肯定的な自己評価の場としてISへの参加が機能している。現在もなお、このタイプがテロ実行犯の主要なプロフィールであることに変わりはない。
しかし、3年前から中産階層出身者が第二のタイプとして登場している。中には白人の改宗者なども含まれる。排除や差別の経験をもたない(か少ない)かれらの多くはシリアの窮状を知る中で人道的関心から、インターネットなどを通じてISに関心をもち、参加する。かれらの参加には、既存の権威や社会的紐帯が揺らぎ個人の自由や選択が当然視(強要)される現代、若者が自分の存在意義を見いだそうと迷う中でISのイスラームを根拠として主張する明確な権威や社会的紐帯にひかれる傾向が(第一のタイプ以上に)特に現れている。