2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2016年3月12日

観測点が赤道ではなく東京だったら

 このような都教委の頑なな態度に対して、教育関係者や科学者からは、以下のような皮肉も飛び出している。

 都教委が「観測は地球の表面でするのだから」という理由で、地球を描いた丸の円周上を始点として月への視線方向の補助線を引くと言うならば、東京都の緯度は35~36度ほどなのだから、太陽系を地球の北極側から見た図3では、地球の丸の円周上よりも中心側に東京都は位置するはずだ。それならば、月の視線方向の補助線の始点もそこにしておくべきで、そうしておけば、本当の答の「ウ」を正解にすることができたのに、というような皮肉だ。地球の北極側から見た図においては、地球の表面に見える最も外側の円周上を始点にすると、たしかに、赤道上から観測していることになる。

 次のような皮肉もある。

 もしも都教委がこの設問のために作成した図3で、模式的に適当な大きさで書いた地球が、もう一回り小さく描かれていたら良かったのに。都教委は運が悪い。というものだ。たしかに、もう一回り小さな円で地球を表現していたら、円周上から月の視線方向の補助線を引いても、その角度は大きく変わり、本当の答であった「ウ」を正解にすることができた。

 このような皮肉を言われるほど、都教委が描いた地球の丸の大きさには意味が無く、そこにこだわる頑なな態度は滑稽だ。

 繰り返すが、地球からの金星の見え方や動き方を説明するだけの二体問題なら、始点を中心から円周上にずらすことで定量的には不正確になっても、定性的には矛盾なく説明することができるだろう。対象が金星だけであれば、地球からの距離のスケールも似ており、金星がどこにいてもだいたい同じようにずれるからだ。

 しかし、今回の設問のように、地球から見える、月・金星・火星の位置関係を比較するような三体問題や四体問題では、地球からそれぞれの天体への距離のスケールが大きく異なるために、少し、事実と違う位置に補助線の始点をずらしてしまうと、答えを誤るほど、それぞれの天体の視線方向の角度がずれてしまう。特に地球に近い月のずれは非常に顕著だ。

 だから、このような設問を説明する際には、「この地球はあくまでも拡大図であり、本当は太陽系のスケールに比べて地球はとても小さいから、月や他の惑星への視線方向の補助線を引くときは地球の中心点から引かなければいけない」と教えるのが通常だ。そうでないと、実際に空に見えている天体と、太陽系における運行図を正しく対比できない。

 そのようなことでは、惑星の正しい動きが把握できず、天文学のレベルは、ガリレオやケプラー以前の時代に逆戻りしてしまう。


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