WEDGE REPORT

シリア難民をトルコに強制送還 ついにメルケルも音を上げた?
EUの弱みにつけ込むトルコ 難民危機で合意の背景

佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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時間軸の長い視点で深く掘り下げて、世界の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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表現の自由の価値観放棄

 EUはトルコのEU加盟交渉などで、国内の民主化の促進を要求。エルドアン政権も一時は少数民族クルド語の放送や教育を合法化したり、死刑を廃止するなどこれに応じた。しかし加盟交渉が停滞するにつれて、民主化も後退。最近では政府批判を展開する最大手紙ザマンを5日に政府管理下に置くなど政権の強権姿勢が一段と強まっている。

ギリシャの難民キャンプで食料の配給に並ぶ人々(iStock)

 しかしEUは今回、表現の自由という欧州の価値観を要求することはせず、エルドアン政権の言論弾圧を事実上黙認する形でトルコの難民送還の提案に飛びついた。トルコを怒らせては、難民危機の解決に向けた提案が崩壊しかねないからだ。「双方は互いの利害のためにただ取引しただけ」(トルコ人コラムニスト)と、なり振り構わないEUの姿勢を問題視する向きも多い。

対立と分裂が深まる懸念

 EUは17、18日の首脳会議で正式な難民送還の合意を目指すが、反対論や問題も浮上している。難民拒否の強硬派であるハンガリーのオルバン首相は「第三国定住」として、シリア難民の受け入れが義務づけられることに猛反発、他の東欧諸国が追随する可能性もある。

 この「第三国定住」が年間数十万人に達することも予想され、合意を推進したいドイツなどと反対する東欧諸国などとの間の対立と分裂が深まる懸念がある。「第三国定住」の場所など具体的な議論が始まれば、収拾がつかなくなる恐れも強い。

 またギリシャに到達した難民のうち、国際法で定められた「保護されるべき難民」もトルコに機械的に強制送還することになり、国連の難民高等弁務官らは、国際法違反の可能性が強いと反対している。なによりも、この送還方式で難民の欧州流入の流れを食い止めるのは、シリアの内戦が終息する見通しがない中、難しいかもしれない。

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佐々木伸(ささき・しん)

星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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