欧州の難民危機を解決するため、欧州連合(EU)とトルコはこのほど、ギリシャに密航する難民・移民のすべてをトルコに送還することで大筋合意した。合意では、難民問題をEU加盟交渉の促進などにしたたかに利用しようとするトルコと、なり振り構わずトルコにすがるEUの実像が浮き彫りになった。だが、合意で難民の欧州流入に歯止めがかかる見通しは全く不透明なままだ。
「難民危機の突破口」とメルケル
この合意の枠組みは7日から開かれたEUとトルコの首脳会議で決まった。内容は、ギリシャへ密航するすべての難民・移民の送還をトルコが受け入れる代わりに、EUが同国に滞在しているシリア難民を「第三国定住」という形で直接受け入れるというのが骨子だ。「第三国定住」の人数は、送還される難民に含まれるシリア人の数と同数になる。
トルコはこの見返りに、EUのトルコ国内への難民支援金を現在の33億ドルからほぼ倍に増額すること、EU加盟国へのビザなし渡航の自由化を当初予定を前倒しして6月末までに導入すること、そして長年求めてきたEU加盟の交渉を加速させることの3点をEU側に約束させた。
EUの首脳会議は昨年、欧州に押し寄せる難民のうち16万人を加盟国に割り当てることで合意したが、ハンガリーなどの東欧諸国が受け入れを拒否するなどしたこともあり、わずか700人の行き先が決まっただけだ。今回の首脳会議も議論が8日にずれ込むなど難航した。
こうした状況下で頃合いを見計らっていたトルコのダウトオール首相が難民の送還方式を提案。EU側は「実現すれば、難民問題の突破口になる」(メルケル独首相)と賛同するなど、“渡りに船”とトルコ提案に飛びついた。EU側はこの際、トルコに約束した見返りのほか、これまでトルコに求めていた民主化要求も放棄してしまった。