英フィナンシャル・タイムズ紙のデイビッド・ガードナー国際問題編集員が、1月26日付同紙に「イランはサウジアラビアに経済的挑戦をしている」との論説を書いています。論旨は次の通り。
経済競争へと向かうサウジ×イラン
フランスとイタリアの政治・ビジネスエリートはハサン・ロウハニ大統領の訪問を大歓迎した。
中東は、イランとサウジがシリアで代理戦争をするなど、宗派対立の深みにはまっている。しかし、イランが世界市場に再開放された結果、新興市場での大儲けの見込みが出てきている。これは、サウジをイランとの経済競争に向かわせることになる。
ロウハニ大統領は、イタリアで約170億ドルの契約(パイプラインから鉄道まで含む)に仮署名し、フランスではエアバス114機の購入に仮署名した。これらの取引は、制裁解除の後、何が起こるかの兆しである。イランの投資需要は、ここ5年、年あたり1500億ドルになると専門家は見ている。慎重なIMFも、イランの輸入は今年の750億ドルから、2020年には1150億ドルになると推計している。
これに対し、サウジは経済と福祉システムの急激な改革に乗り出している。過去には、危険として実施が見送られた燃料への補助金は削減され、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子はサウジアラムコの株の一部売却さえ提起している。サウジ経済は外国投資に相対的には閉ざされてきたが、サウジは過小評価されるべきではない。サウジはたるんだレンティア国家(土地からの天然資源収入等に依存する国家)であるが、すぐれた企業も作ってきた。アラムコとサビック(石油化学)がその例である。しかし、原油価格の崩壊、イランの挑戦、若者の雇用確保の必要は、サウジ指導部が何かをすべき状況を作っている。
経済面で競合関係にある“湾岸の巨人”
機会を逃すと隣国に取られてしまう。アラブ首長国連邦(UAE)の港湾はイランへの物流ハブになるだろうし、ガスの豊富なカタールはイランのガス開発に協力しうる。国際的な銀行がリスクを心配する中、ドバイなど地域の銀行に黄金のチャンスがある。
サウジは外交や軍事の面においてよりも、経済面でイランとよりよく競争する。戦場ではそれほどでもない。イラン断交でサウジに続いたのは、バーレーンとソマリアなど北アフリカ諸国だけであった。
湾岸の巨人が経済面での競合関係にあるのはほぼ確実である。世界の地政学がイランを計算に入れはじめ、サウジのワッハーブ主義とジハード過激派の関係が問題にされる中、サウジの支配者は自らの強さを見直そうとするかもしれない。
出典:David Gardner,‘Iran poses an economic challenge to Saudi Arabia’(Financial Times, January 26, 2016)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/427186b0-c419-11e5-b3b1-7b2481276e45.html#axzz3yTwC3H9V
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