この熱き人々

2016年7月20日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 そういえば明治大学の演劇学科卒業だった。卒業後も就職せずに、アルバイトをしながらシナリオを書いては映画会社に送っていたが、なかなか採用されない。

 「25歳の時に、最終候補までいって落ちた。このままでは食べられなくなる。何かが足らない。映画界の求めているものに合わせようとしている自分に気持ちが冷めて、映画では思い通りに書けない思いのたけを小説ならぶつけられるかと初めて書いたのが『白の家族』でした」

 本名の栗田教行(くりたのりゆき)で応募した作品『白の家族』は、86年、野性時代新人文学賞を受賞。

 「食べるのに賞金がほしかったということもあって、一瞬舞い上がったけど、次がなくて困った。太宰も三島も読んだことないし。そこから小説を読み始めたんですよね」

 その後も、映画の世界に戻って、また食い詰めて、再び賞と賞金を求め、天童荒太というペンネームで直近の締め切りの公募に滑り込んだ。28日しかないので1日40枚のペースで一気に書き上げた『孤独の歌声』が、93年、日本推理サスペンス大賞の優秀作に選ばれた。賞金の500万円が栗田教行のまさに命をつなぎ、作家・天童荒太の命を生んだというわけだ。

 『永遠の仔』以降、天童は「テーマが降りてくる」という表現を使う。「対話するように書く」とも言う。自身との対話、登場人物との対話、そして読者との対話、前作との対話の中から、次の書くべきテーマが浮かび上がってくるということなのか。

 今、天童の中に、どんな次回作のテーマが現われているのだろうか。一読者としてぜひ知りたくなる。

 「次は超エロスです」

 え? と思わず耳を疑う。天童からその言葉を聞くか? という反応は、天童をすでにあるイメージで捉えてしまっているということでもある。読者は、つい作家を作り上げたイメージの中に取り込んで安心したがる。

 「それをひっくり返しますよ。ペインレス。痛みを感じない女性を通して、この世界は社会観もすべての常識も痛みが基本になっているということを、性愛の遍歴を通して暴いていく。こんなの天童さんじゃない、と言われることを楽しみにしています」

 楽しみなような、ちょっと怖いような、何が見えてくるのか不安なような……これまでの天童像を覆されるにしても、命を削るように作品を連ねていくことに一生を賭けた作家との対話なのだから、天童ファンはきっと待ち続ける。

(写真・岡本隆史)

 てんどう あらた/1960年、愛媛県生まれ。86年、『白の家族』で野性時代新人文学賞受賞。以降、『家族狩り』『永遠の仔』『悼む人』など、生と死、家族や社会のあり方を真摯に問う作品を上梓。最新刊『ムーンナイト・ダイバー』(文藝春秋)では、東日本大震災で生き残った人々の贖罪と希望を描く。

  
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◆「ひととき」2016年7月号より

 

 

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