韓国の「読み方」

2017年3月14日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

選挙集会で叫ばれた「朴正煕!」

 5年前の大統領選を取材していた時、朴槿恵氏の選挙集会に集まった高齢者が「朴正煕!」と叫んでいるのを見て驚かされた。朴正煕は民主化運動を弾圧した独裁者だが、一般の国民にとっては高度経済成長を成し遂げてくれた恩人でもある。朝鮮戦争直後に世界最貧国レベルだった韓国に現在の繁栄をもたらした点で、朴正煕の功績は極めて大きい。私の友人は数年前、70代の父親に「いまの韓国の発展ぶりをどう思うか」と聞いたという。その時に返ってきた答えは「夢みたいだ」だったそうだ。

 貧しいけれど希望があった朴正煕時代は、日本で言えば「ALWAYS三丁目の夕日」で描かれた時代のようなイメージである。朴正煕が殺害されて突然終わりを迎えただけに、きれいな記憶ばかりが思い出されるという面もあるだろう。その時代を生きた多くの人は、娘に朴正煕を重ね、熱狂的な支持を送ったのである。

 一方で、豊かな生活を享受する現代の若者たちは閉塞感にさいなまれている。1997年の通貨危機を脱するために始まった新自由主義的な経済政策の下で常に競争を強いられ、格差は拡大する一方だ。正社員と非正規雇用の待遇格差は日本とは比べものにならないほど大きい。それに正社員になれたとしても、何年も働けるわけではない。社内での激しい競争にさらされ、大手企業での平均勤続年数は12年にすぎない(韓国の就職情報サイト「サラムイン」が昨年発表した売上高上位100社調査)。

社会の分断を深刻化させた強権政治

 朴槿恵氏も5年前の大統領選では格差や福祉問題を前面に打ち出し、分断された社会の再統合を訴えた。だが、実際の政権運営は父親譲りの強権ぶりで、反対派の声には一切耳を傾けようとしなかった。反対勢力は力で押しつぶし、側近でも意に沿わない言動があれば容赦なく切り捨てた。韓国では朴正煕が独裁色を強めた70年代のことを「維新時代」と呼ぶのだが、朴槿恵政権下では「維新時代でもあるまいし」という言葉がよく聞かれた。

 一方で、経済政策などは全くといっていいほど実績を残せなかった。政策を立案しても、野党の抵抗で実現できなかったのである。韓国の大統領は「帝王的」とも称されるが、それでも政策実現のためには国会の協力が必須となる。朴氏のスタイルで野党から協力を得るなど、とうてい不可能なことだった。父親の時代とは環境が違うのに、朴氏は父の影を追うことしかできなかった。

 結局、もともと深刻だった社会の分断は朴政権下でより深刻化した。朴氏に対する逆風が猛烈なものとなった背景には、こうした政権運営に対する怒りも大きかった。疑惑が発覚した際にきちんと謝罪し、説明を尽くそうとする態度を見せていれば、こんなことにはならなかったのではないか。そう言われることもあるが、朴槿恵という人物にそうした対応を求めることは無理だったのだろう。

  
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筆者の新刊(2017年1月13日刊行)。礒﨑敦仁・慶応大准教授との共著で2010年に出版した「LIVE講義 北朝鮮入門」を全面改訂し、金正恩時代の北朝鮮像を描く。核・ミサイル開発などの最新データを収録。

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