Washington Files

2018年6月11日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。現在、神田外語グループ参与。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 ここ数年来、世界情勢を論じる際に欧米メディアに登場するようになった最もトレンディな用語と言えば、「ニュー・ノーマル」だろう。「新常態」と訳されている。中でも際立つのが、トランプ米政権が打ち出してきた一連の内外政策の“異形”ぶりに関連した報道だ。

 もともと[new normal」という表現が注目されるようになったのは、2008年リーマン・ショックに端を発する世界同時不況以来とされる。

米朝首脳会談を前に警戒が強化されるシンガポール。写真はマリーナベイサンズ(Photo by Chris McGrath/Getty Images)

 それまで日米欧を中心とする世界経済は「冷戦終結」の恩恵にあやかり高度成長を続けてきた。しかし、突然、襲った連鎖的金融危機によって各国とも不況に追い込まれた。

 この同時不況は一応、2013年をもって終焉したといわれるが、実際には世界経済はその後も低迷状態から抜け出せないままでいる。これがすなわち「新常態」というわけだ。とくにウォール街で頻繁に使われるようになったが、そこにはけっしてポジティブな響きはない。
 
 しかし、「ニュー・ノーマル」が各国マスコミで多用され始めたのは、2016年9月、習近平中国国家主席が主要20か国・地域(G20)首脳会議(杭州サミット)で行った基調演説がきっかけだった。

 習近平氏は演説の中で次のように述べた。 

 「これからが中国にとって、包括的で深化した改革を発展させ、経済的社会的発展を継続的に前進させ、発展モードを変えニュー・ノーマルへと適応させ、世界とオープンで深い関わりを持てるようにするための出発点だ」

 つまり、彼が言おうとしたのは、かつてのようなGDP8%を上回る「急速な高度経済成長」の時代とは異なり、これからは「安定した高度成長」へとギア・チェンジすると同時に、社会経済構造の改善と向上につねに取り組んでいくべきだという訴えだった。その限りにおいては、中国政府の場合、率先して「ニュー・ノーマル」という表現を前向きにとらえ、その線にそって政策を推進してきたということができる。

 これとは対照的なのが、ロシアだ。

 中国とは異なり、ロシア政府自身が「ニュー・ノーマル」という言葉を使ったことは一度もない。しかし、西側マスコミの、プーチン政権が打ち出す内外政策に関する論評では、好んで引用されてきている。

 とくに2014年の軍事力を投入したクリミア併合以来、近隣諸国の反ロシア勢力に対する力ずくの封じ込め、国内反体制派の言論弾圧など、一連の強行手段や政策が俎上に上がり、プーチン体制の下で、かつてKGBと軍部が強大な影響力を行使したソ連時代のような“ノーマルな国家”に戻ったというわけだ。

 しかしここへきて、トランプ米政権の“ニュー・ノーマル”体質に対するメディア批判が、そのボリュームを一段と挙げ、話題を集めている。政策内容、政権運営スタイルのいずれにおいても歴代共和党政権下でも例を見ない“異形”現象が定着してきたからだ。「トランプ流」と言ってもいいだろう。

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