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2019年5月24日

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田中浩一郎 (たなか・こういちろう)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授

東京外国語大学大学院アジア第2言語修了後、在イラン日本大使館で専門調査員、国連アフガニスタン特別ミッション政務官等を歴任。2012年より日本エネルギー経済研究所常務理事を経て、17年より現職。

 折しも、米議会では超党派の上院議員が「合衆国憲法に反する対イラン軍事攻撃を阻止する法案」を共同提出している。しかし、AUMFを対イラン軍事攻撃に援用することはない、との確認を議会上院外交委員会の公聴会で求められたポンペオ長官は、質問への明示的な答弁を避けつつ、イランとアル・カーイダとの繋がりをことさら強調した。これは米軍による対革命防衛隊攻撃が米国内法で容認されるという理屈であり、FTO指定を通じて革命防衛隊およびイランの脅威を誇張し、軍事標的に祭りあげようとするトランプ政権の意図が見えてくる。

 実は革命防衛隊は、イラクとシリアでイスラーム国の前進を阻止することに大いに貢献した。だが、イランと敵対するサウジアラビアとの比較では、兵員数で上回るものの、軍事予算で大きく後塵を拝し、装備体系は入乱れ、1世代以上遅れた作戦航空機や戦車の運用を余儀なくされている(下図)。革命防衛隊には報復としてホルムズ海峡封鎖を脅す司令官もいるが、それは自殺行為であるため実行不能だ。

 こうした現実を無視した上で革命防衛隊をFTOに組み入れた思惑は、一足早く実施した、イスラエルによるゴラン高原併合を認めるトランプ大統領の宣言書への署名にも通じる。

 ちなみに、ゴラン高原に関する米国の政策変更は、エルサレムをイスラエルの首都としてトランプ大統領が認定したことに続く重大な国際法の侵害だ。国連安保理が拒否する「武力紛争を通じた領土の取得」を米国が容認したことは、各方面に混乱とリスクを拡散させる。「力による現状変更」がまかり通るのであれば、イラクがクウェートの併合を宣言したことへの国際社会の対応として生じた、1991年の湾岸戦争の大義も失われてしまう。

 さて、内戦下のシリアからイスラエルが占拠するゴラン高原にロケット弾が飛来する事態が近年たびたび起きていた。これをイランによる攻撃と断じるイスラエル軍は、シリア南西部の革命防衛隊駐屯地や兵器庫などに反撃を加え、時にはシリア中部への拡大報復や先制攻撃を敢行した。ゴラン高原が併合により自国領となれば、イスラエルはシリア方面で大規模な軍事作戦を発動する法的根拠を補完することができる。それは革命防衛隊とイランに対する攻撃の正当化に通じる。そして、そこにAUMFに基づいて米国が軍事介入する構図さえも見え隠れする。

 軍事面に加えて、米連邦捜査局(FBI)が米国外において、「米国市民に対してテロを働いた」容疑者を拉致し、米国の管轄権が及ぶ領域に連行するという、他国の主権に対する侵害行為も、米政府は独善的に主張してきた。いま、これを革命防衛隊関係者に適用することも視野に入ってくる。

 なお、イランは、FTO指定への対抗措置として即座に、中東地域に展開する米中央軍を含む米軍をテロ組織に認定した。双方が互いをアル・カーイダやイスラーム国と同等の攻撃対象に定めるような臨戦態勢にあり、一触即発の危機が中東に迫っている。

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