チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年3月29日

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西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学大学院公共政策学連携研究部付属公共政策学研究センター研究員

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

 他にも、2014年1月に習近平主席が真冬の内蒙古の国境警備隊視察を歌った『主席が私の傍まで来られた』という歌がある。

 「♪白い衣に包まれた興安嶺で、銃を握りしめて辺境を守る、四方が見渡せる歩哨の拠点に、主席がやって来られた」

 と歌うこの歌も、内蒙古の権威のある音楽家が制作した歌で官制のプロパガンダ・ソングだ。

 こうした国家指導者個人を称賛する歌は鄧小平時代、江沢民時代、胡錦濤時代にも無くはなかった。しかし、何といっても思い起こされるのは毛沢東時代の『毛主席、あなたは私たちの心の真っ赤な太陽です(毛主席、您是我們心中的紅太陽)』とか、『偉大なリーダー毛沢東(偉大的領袖毛沢東)』などの毛沢東崇拝ソングだ。

 21世紀の今日、再び国家主席個人を賛美する歌が次々につくられていく風潮は、かつての毛沢東に習近平を重ねようとする意図がどことなく透けて見える感じがする。

民間ミュージシャンの便乗

 「『まるで毛沢東』のように習近平主席を称賛してOK」な世間の空気を、庶民も敏感に感じ取って、これに乗っかろうとする者も現われた。最も注目を集めたのは2014年11月にネット上で話題になった『習ターターは彭マーマを愛している(習大大愛着彭麻麻)』だ。

 河南省出身の4人組が作ったカントリーソング風の歌は、習近平主席と彭麗媛夫人のフラッシュアニメの動画が付いたものがネット上に広まった。民間に既に広まっていた「習ターター」という習近平主席の愛称を歌のタイトルに大胆につけたことが、人々の心をくすぐった。

 この歌のヒットは新華社や人民日報でも紹介され、国家に対する「草の根の人たちの信頼と理性」が感じられると評価されたことで、民間の「習ターター」ソングは市民権を得て、二匹目のドジョウを狙う全国の音楽のセミプロや素人によって似たような歌が作られていく。

 なかでも秀逸なのは、『習ターター、人々が称賛(習大大、人人誇)』だ。「♪彼はみんなの幸せのために働いてくれる/みんなが彼を愛している/正義心があって肝っ玉が大きくて、虎もハエもみな叩く」と習近平ベタ褒めな歌詞に加え、「♪習ターター、エィッ、習ターター」と高らかに歌い上げるサビの部分が印象的な歌で、中国のあちこちの街角で早朝や夕方によく見る、派手な扇子を持って踊るおばちゃんたちの集団ダンス「広場舞」にぴったりだ。

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