前向きに読み解く経済の裏側

2016年9月3日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

満員のプールに刃物犯が現れたら……

 先日、混雑したプールに刃物を持った犯人が現れて、女性数人に切り傷を負わせた、という事件がありました。被害者の方々にはお見舞いを申し上げます。さて、そうした際、会社として、「刃物を持った不審者がいます。気をつけて下さい」というアナウンスをすべきでしょうか? これも難しい判断です。

 アナウンスをしなければ、人々は刃物犯に対して無防備のままですから被害者が増えるかもしれません。しかし、混雑したプールでアナウンスをすれば、大勢が出口に殺到して大混乱になり、転倒等による怪我人が多発するかもしれません。

 どちらのリスクが大きいかを判断して、適切な対応を採る必要があるでしょう。ゴジラの場合は、撃退した方が被害が少ないことが明らかなので、意思決定はある意味簡単なのですが、本件ではどちらのケースも被害が読めないので、悩みは深いと言えるでしょう。

 さて、会社の保身を考えた場合には、どちらが得でしょうか? アナウンスをしない場合、二人目以降の被害者は「アナウンスをしていれば自分は被害に遭わなかったはずだ」として会社を訴えるかも知れません。一方で、アナウンスをした場合には、出口で怪我をした人が会社を非難する可能性は低いでしょう。「被害の拡大を防ぐ必要があった」と会社に言われれば、それまでだからです。

 誰かが感謝してくれるかと言えば、アナウンスを行っても行わなくても、誰からも感謝されません。アナウンスが無かった場合、「アナウンスがあったら自分は出口で転倒して怪我をしていただろう」と考える人はいませんし、アナウンスがあった場合、「アナウンスがなければ自分が刺されていたはずだ」と考える人もいないからです。

 その意味では、保身だけを考えればアナウンスを行うべき、ということになりますが、筆者が責任者であれば、出口での大混乱も避けたいところですし、悩むでしょうね。

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