安保激変

2017年2月22日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 しかし、日米共同記者会見に臨んだトランプ大統領は、日米関係に関する発言に関しては、これまでの米政権の発言を注意深く踏襲していた。日米同盟については「アジア太平洋の平和と繁栄の礎石(cornerstone)」というフレーズを口にし、尖閣諸島が安全保障条約第5条の適用範囲に含まれることも「日本の領土及び施政下ある地域に対する米国の防衛義務」という言い回しで確認した。質疑応答の際に、首脳会談前日にワシントン州の連邦控訴裁が、「ムスリム入国禁止令」として知られることになった、イラク、イランをはじめとする7カ国からの永住権保持者以外の入国禁止措置や、シリアからの難民受け入れの一時停止を命じた大統領行政命令の即刻差し止めを支持する判決を下したことなどについて聞かれると、「トランプ節」が復活したが、こと日米関係に関する言及については慎重な言い回しが目立った。また、フロリダ滞在中に北朝鮮が中距離弾道ミサイルを発射したことにより、安倍総理とトランプ大統領は並んで記者会見を行い、北朝鮮の脅威に日米が一致して対応していく姿勢が強調された。

フリン氏辞任は日本にとって痛手

 今回の首脳会談の結果については、日本側はある程度安堵しているだろう。しかし、今後の展開を考えるとまだまだ、不安は残る。

 当面の最大の懸案は、今回の首脳会談で合意された「日米経済関係を深化させるための分野横断的な対話」がどのようなものになるかである。ペンス副大統領と麻生副総理の間で行われるこの協議が、通商・金融問題について1980年代を彷彿とさせるような厳しいやり取りが行われ、米国からの様々な主張に日本が苦慮するばかりの場になるのか、それとも、日本が交渉を継続している「TPP-アメリカ+中国」の枠組みである地域包括的経済パートナーシップ(RCEP)のような多国間貿易協定などについて議論の俎上に挙げ、トランプ政権側に、政権が公約している『脱TPP、二国間交渉重視』の通商政策路線を修正する方向に働きかけを継続できる場にもなりえるのか、方向性については不安定なところが多い。

 安全保障面でも、フリン国家安全保障担当大統領補佐官の辞任は日本側にとって大きな痛手だ。フリン氏は、国防情報庁(DIA)長官の職を2014年に当時のオバマ大統領によって更迭され、彼のイスラム教に対する偏見は米国の国防政策コミュニティの中では批判も多かった。また、大統領選挙期間中の数々のヒラリー・クリントン候補に対する発言や、彼の共和党党大会での演説は、中将クラスの米軍元幹部がどこまで政治的発言を公の場ですることが許されるのか、という議論を巻き起こすきっかけにもなった。つまり、フリン氏の全体的評価は必ずしも高いわけではないのだ。

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