イノベーションの風を読む

2017年3月19日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

体験の拡大

 五代目は「食酢製造業である飯尾醸造が、地元の活性化に寄与できることはすでに限界にきていると考え、飲食業に参入することにした」と新浜スクエアの狙いを説明したが、「購入と体験の循環」の体験を拡大する戦略と考えることもできる。

 しかし明治時代の古い家屋と、一流のイタリア料理店と鮨店というコンテンツだけでは循環の継続は難しい。例えば「日本でいちばんフードマイレージの少ない鮨(魚、米、酢のすべてが丹後産)」など、それぞれのコンテンツには循環のエンジンとなるコンテキストが用意されている。

 五代目が10年前に明文化したという飯尾醸造の経営理念は、「関係する人たちから日本でいちばん必要とされるお酢蔵を目指す」というものだ。経営理念とは企業のあるべき姿を顧客視点で表現したものであり、その企業の商品やサービスのコンテキストは、その経営理念が具体化され反映されたものでなければならない。

 飯尾醸造の酢や新浜スクエアのコンテキストには、消費者、原料生産者、地元、取引先、社員など、すべての関係者とWin-Winの関係を築くという理念が反映されている。顧客の体験のデザインに関係者を巻き込むことによって、その体験をより豊かなものにすることができるだろう。

 顧客が田植えと稲刈りに参加することによって、インターネットで酢を購入した顧客と社員との交流が生まれる。五代目は「蔵人にとって、自分の作る酢のファンに『いつもありがとう』と労いの言葉をかけられることは大きなやりがいにつながる」と言う。この辺りにも飯尾醸造の経営理念が反映されているのだろう。

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