地域との共生で創るウインドファーム
「風の高原」として知られる福島県郡山市の布引高原には、毎年10万人を超す観光客が訪れる。標高約1000mの高みから磐梯山や猪苗代湖を望む景勝の地。一面を覆う夏のひまわり畑も壮観だが、注目を集めるのは、頂上に連なりそびえる大風車だ。高さ100mの発電塔が33基。総出力は約6万6000kW。高原の豊かな風の恵みが生んだ日本最大級のウインドファーム、郡山布引高原風力発電所がここにある。
風車の足下に目を移せば、特産・布引高原大根の畑が広がっている。聞けば、農業との共生が、この発電所が地元で愛されるもう一つの理由なのだという。発電所を核とする観光資源の整備と、自然環境との調和、またそこを訪れる人々への再生可能エネルギーに関する啓発活動、さらには東北の風から生まれる電力を首都圏向けに供給するという大規模風力利用への新たな挑戦。それらの評価が相まって、郡山布引高原風力発電所は2008年度、新エネルギー財団による第13回「新エネ大賞」新エネルギー財団会長賞に輝いた。
同じく第5回の新エネ大賞で資源エネルギー庁長官賞を受けているのが、北海道北西部留萌地方の日本海沿岸に立つ苫前ウィンビラ発電所だ。こちらは町営牧場内に建てられ、電力ケーブルを地中に埋設するなど、牧場経営と環境保全、発電事業の三者共存を果たしていることが目を引く。
もともとこのエリアは道内屈指の強風地帯として知られ、特に冬場の地吹雪は激しく、吹き荒れる風は地元民にとって厄介者だった。それを逆転の発想で町おこしに活かそうと、凧揚げによる観光振興、風力発電による地域振興へとつなげていった。千葉大学公共研究センターと環境エネルギー政策研究所の共同研究組織「永続地帯研究会」によると、苫前町の電力自給率は約781%で全国8位、道内トップの座にある(2016年度)。苫前ウィンビラ発電所も、その一端を担う。
町おこしのシンボルとなり、自然とともに生きる風力発電所は数多い。「新エネルギーの町」を宣言し、約20年にわたって自然エネルギーの導入を進めてきた岩手県葛巻町。そこに立つグリーンパワーくずまき風力発電所は建設にあたり、動植物の生態系に配慮。電線を地中化し、風車の設置間隔を拡げるなどして自然共生型ウインドファームのモデルとなった。ここでも発電の舞台は広大な酪農場だ。
ほかにも、鳥海山の美しい景観との調和を図る仁賀保高原風力発電所(秋田県)、甘藷畑と共生する福井県のあわら北潟風力発電所、養豚・養鶏場に隣接する南大隅ウィンドファーム(鹿児島県)など、事例は多々ある。これら一連の発電所を開発したJ-POWER(電源開発)の三好極氏(環境エネルギー事業部風力事業推進室長)はこう話す。
「風力発電はクリーンエネルギーの象徴とも言える存在ですが、その根っこにあるのは地域との共生。調査から稼働までの長い道のりの第一歩は、そのための対話から始まります」
半世紀の実力が生きる風力発電プロジェクト
水力・火力を得意とするJ-POWERが風力発電の開発に乗り出したのは90年代初め。革新的エネルギー技術の開発などを目指す政府の「ニューサンシャイン計画」が始まるなど、再生可能エネルギーへの期待が高まるなか、J-POWERはいち早く開発に着手。2000年には日本における大規模ウインドファームの先駆けとなる、前述の苫前ウィンビラ発電所の運転を開始した。
以後、全国に足場を築き、今年1月に秋田県で完成した由利本荘海岸風力発電所を含め、現在、J-POWERが国内で手掛ける風力発電所は25地点(運転中22/建設中3)に及ぶ。運転中設備の合計出力は約44万kWで国内シェア第2位。2019年竣工予定の建設中3地点を含めると約58万kWとなり、右肩上がりの勢いにさらに拍車がかかる。
「当社は戦後復興期の電力需要に応えるために発足して以来、半世紀以上にわたって水力発電や石炭火力発電の大規模設備を開発・運営してきました。その過程で積み上げられた、発電所を建設して運営するノウハウを風力発電にも活かし、調査から計画、設計、運転、保守までの一貫した体制で事業に臨んでいます」(三好氏)
風力エネルギーは、風速の3乗に比例して増大するという。したがって、できる限り発電効率を高めるために、発電に適した強い風が、年間を通じて安定して吹く場所を選ぶことが必須の条件となる。このため風況調査は1年以上に及び、またシミュレーション解析により、地形や植生、風車の相互干渉などで複雑に変動する風の吹き方を多角的に精査する必要がある。さらに加えて、広大な敷地があり、送電線からも近く、環境アセスメントに適合し、最も重要な地元の理解と協力が得られる土地柄でなければ、風力発電は実を結ばない。