2024年4月26日(金)

公立中学が挑む教育改革

2018年10月30日

「やらされ勉強」からの脱却

(撮影:編集部)

「そもそも、勉強とは自分から自発的に取り組むものであって、定期テストだから勉強するというのは本末転倒です。瞬発力も大事だけど、勉強はそれだけではない。日常的にテストという目標が身近にあることでモチベーションが継続し、すきま時間をうまく使う習慣も身に付いていくんです」

 もうすぐ小テストだから、分からないところを確認しよう。次の時間は単元テストだから、休み時間に少しでも確認しよう。そんな風に「小さくあがく」ことも大切なのだと関根氏は説く。

 このやり方では生徒たちへの負荷が高まってしまうのではないか? と懸念する向きもあるかもしれない。ただそれは、従来のやり方にも言えることだ。定期テスト前に中学生が徹夜するのが望ましいことかと問われれば、否定せざるを得ないだろう。

 テストの形が変わってから、関根氏のもとへは以前にも増して生徒が質問に訪れるようになったという。

「特に3年生はよく質問に来ますね。小テストや単元テストが近くなると本当に多いです。1回あたりのテスト範囲が狭いことで、『自分の分からないところが分かりやすく』なったのでしょう。教員としても、生徒の理解度を以前よりもつかめるようになりました」

 関根氏が担当する理科の場合は、言葉を覚える暗記の部分は成績が非常に伸びているという。一方、思考力や技能を問う領域では、ペーパーテスト以外の実験や観察を以前よりも厳しく見るようになった。きちんと考察ができているか、ちゃんと自分の意図が伝えられているか。教員として、こうした評価にも力をより振り向けられるようになったのだ。

 この方法の真価が見えるのは2年後になると関根氏は言う。今の1年生が卒業していくときに、学習法として定着しているかどうか。それが楽しみなのだと。

「その頃には大学入試制度も大きく変わっています。やらされ勉強ではなく、いかに自分で決めて勉強をするかが今以上に問われる時代になっているはず。自身で課題を見つけ、必要なときに勉強をする。必要がないところは手を抜いてもいい。それを自分で考え、判断し、行動できる力は、大人になっていくに連れてますます重要になっていくのではないでしょうか」

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▼連載『公立中学が挑む教育改革』
第1回:「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている
第2回:対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
第3回:先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
第4回:教育委員会の都合は最後に考えよう
第5回:着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
第6回:“常識破り”のトップが慣例重視の現場に与えた衝撃
第7回:親の言うことばかり聞く子どもには危機感を持ったほうがいい
第8回:保護者も学校を変えられる。麹町中の「もうひとつの改革」
第9回:社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない
第10回:人の心なんて教育できるものではない(木村泰子氏×工藤勇一氏)
第11回:「組織の中で我慢しなさい」という教育はもういらない(青野慶久氏×工藤勇一氏)
第12回:「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由
第13回:なぜ、麹町中学は「固定担任制」を廃止したのか
第14回:修学旅行を変えたら、大人顔負けの「企画とプレゼン」が生まれた
第15回:「頑張る」じゃないんだよ。できるかできないか、はっきり言ってよ​
第16回:誰かと自分を比べる必要なんてない(澤円氏×工藤勇一氏)
第17回:失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる(澤円×工藤勇一)
第18回:教育も組織も変える「魔法の問いかけ」とは?(澤円×工藤勇一)
第19回:「言われたことを言われた通りやれ」と求める中学校のままでいいのか(長野市立東部中学校)
第20回:生徒も教職員も「ついついやる気になる、やってみたくなる」仕掛け(長野市立東部中学校)

多田慎介(ライター)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

  
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