2024年4月27日(土)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年3月1日

4つの「説得のメッセージ」

 クリントン陣営では、ボランティアの草の根運動員に、以下の4つの「説得のメッセージ」を用いて有権者を説得するように指示が出ています。

①  ヒラリーは家族や中間層のために戦っている
②  富裕層だけではなく、すべての人に機能する経済を作る
③  ドナルド・トランプやデッド・クルーズに勝てる候補である
④  大統領に就任したら初日から仕事ができる唯一の候補である

 ① は、クリントン候補が15年4月12日にネット上で出馬宣言をした時に発信した核となるメッセージです。ところが、戸別訪問を行っていると、無党派層やサンダース支持者から「普通の人のために戦っているのはトランプだ」「中間層を気遣うのはバーニー(サンダース)だ」という声を聞くのです。同候補の核となるメッセージが浸透していないのは明らかで、これも苦戦の一要因となっています。

 同様に、②のメッセージも説得力に欠け、浸透させることができません。有権者は、クリントン候補を普通の人ではなく、富裕層として捉えているからです。米金融機関ゴールドマン・サックスから3回の講演料として67万5000ドル(約7億6000万円)を受け取ったと指摘され、一層、富裕層のイメージは強化されました。

 さらに、サンダース支持者は「バーニーは中小企業の味方です。ヒラリーは大企業の味方です」と語ります。有権者は、クリントン候補はウォール街の金融機関から献金を受け、大企業で働く富裕層のために戦っているというマイナスの印象を抱いているのです。結局、1186軒(16年2月5日現在)の戸別訪問を実施しましたが、①と②のメッセージはまったく通用しませんでした。

 筆者のフィールドワークによれば、4つの内、機能するのは③と④のメッセージです。クリントン候補が共和党候補に対して勝ち目のある候補であるというメッセージは、確かに効果的です。というのは、サンダース支持者や決めかねている支持者は、サンダース候補の人柄に魅力を感じているのですが、「バーニーは本選で勝てないかもしれない」と語るからです。ただし、サンダース支持者はそれでも同候補に投票すると主張しますが、クリントン支持者及び決めかねている有権者は共和党候補に勝てる民主党候補を重視する傾向があります。

 クリントン候補の豊富な経験に訴える④のメッセージも、効果があります。大統領就任1年目は「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」ではなく、スタートから課題を遂行できるのは、クリントン候補の強みだからです。

 結局、4つの「説得のメッセージ」の内、半分が効果的ではありません。①と②は、クリントン候補ではなく、サンダース上院議員のメッセージとして有権者に映っているのです。これも同議員に対して、クリントン候補が圧倒的な強さを発揮できない要因になっています。


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