WEDGE REPORT

2017年1月21日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

グレート・モスク(The Great Mosque of Aleppo)

 718 年に建てられた古いモスク。ウマイヤ朝正当カリフの時代に建てられたモスクの中では最大規模だった。だからグレートモスクと呼ばれる。シリアの中でも最大のモスクとなる。

 このウマイヤ朝のモスクは信者が祈るだけではなく、観光客や地元の人間も美しい建築物を鑑賞しに訪れた。1290年以上の間、信者の足が絶えることはなかった。けれども、2013年の4月24日だった。テロリストがモスクを攻撃し、歴史的建造物を破壊した。

 彼らは古いドームの美しい祭壇を盗んだ。それは象牙、真珠、銀が埋め込まれていたんだ。そして爆弾をミナレット(イスラム教寺院の塔)に仕掛け、吹き飛ばした。アレッポの市民はこの行為を決して拭い去ることのできない恥辱と見なした。

1290年守ってきたモスク

 あの日、ぼくらは失望し、悲しかった。テロリストはぼくらを破壊した。歴史を破壊した。ぼくらはこのモスクを1290年以上保存してきた。先祖たちが長年保存し祈りを捧げてきたモスクだ。そしてあの日、すべて破壊された。テロリストは永続性を断った。神聖なものを汚した。彼らは記憶を焼き、殺した。あの日、信仰は消えた。

アルキンディ病院(Al Kindi Hospital) 

 結核患者の治療のために1950年代に建てられた病院。ぼくらは貧しい人のための病院と呼んでいた。中近東で最初の骨バンクだった。

 病院は2006年に拡張されてシリアで一番の規模になった。そして近代的な医療技術を施し、癌や腎臓病を治療するようになった。政府の病院だったので完全無料だった。ぼくが病院を最後に訪れたのは2010年のことだった。治療しに行ったのでも見舞いに行ったのでもなかった。ただこの記念碑を見たかった。

 なぜって、シリアは貧しい第3諸国の一員とされている。そのシリアでのもっとも偉大な業績のひとつだったから。ぼくは誇りに思わずにはいられなかった。長い歴史の中で貧困と戦争に苦しんできたぼくの国が、この病院を建て近代技術に追いつこうとした。

 けれども、2013年12月20日のことだった。あらゆる希望は失われ、誇りは粉々になった。いつもと同じ日ではなかった。アレッポの住民全員がショックを受け悲しみに沈んだ。テロリストがそれぞれ20トン爆薬を乗せた2台のトラックで自爆攻撃をしかけ、病院は完全に破壊され、瓦礫となった。爆発の規模が凄まじかったので完全に消滅し、警護にあたっていた十数人のシリア兵が殺された。

 普段の日ではなかった。なぜならテロリストは病院を破壊しただけではなく、ぼくらの夢も打ち砕いた。貧乏な人々の無料治療の希望も打ち砕いた。それだけじゃない。テロリストは捕虜にしたシリア兵士を公衆の面前で処刑した。子どもたちの心にはテロの恐怖が植え付けられた。あの日、人類愛は失われた。

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