イスラエル政府は15日、隣国シリアとの間にある占領地ゴラン高原での入植拡大を促す計画を承認した。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、シリアの反政府勢力がバッシャール・アル・アサド政権を倒した後、イスラエルとシリアの国境に「新たな戦線」が開かれたとし、今回の承認の必要性を強調した。
ネタニヤフ首相は、ゴラン高原の人口を倍増させたい考えを示した。
ゴラン高原は、シリアの首都ダマスカスの南西約約60キロメートルに位置する岩だらけの高原。イスラエルは1967年の6日間戦争の終盤にシリアから奪い、1981年に一方的に併合した。国際的には承認されていないが、2019年に当時のトランプ米政権が単独で認めた。
イスラエル軍はアサド政権崩壊の数日間に、ゴラン高原とシリアを隔てる緩衝地帯に部隊を移動させた。
ゴラン高原の緩衝地帯は、1974年にイスラエルとシリアが合意した兵力引き離し協定により設定された。しかし、イスラエル側は、シリアで反政府勢力が実権を握ったことで、この協定は「崩壊」したと主張している。
緩衝地帯でこうした動きが見られるなか、ネタニヤフ首相は15日夕、イスラエルは「シリアとの紛争に関心はない」とする声明を発表。
「我々は、現地の現実に従って、シリアに関するイスラエルの政策を決定する」とした。
ゴラン高原には30以上のイスラエル入植地があり、推定2万人が暮らしている。これらの入植地は国際法違反とみなされているが、イスラエルはこの見解に異議を唱えている。
入植者たちは、約2万人のシリア人とともに暮らしている。そうしたシリア人の大半は、同地域がイスラエル支配下に置かれた際に逃げ出さなかったドゥルーズ派のアラブ人だ。
ネタニヤフ氏は、イスラエルは「(ゴラン高原の領土を)保持し続け、繁栄させ、定住させる」と述べた。
しかし、イスラエルのエフード・オルメルト元首相は、同国がゴラン高原の入植を拡大する「理由は見当たらない」としている。
「(ネタニヤフ)首相は、シリアとの対立を拡大することに興味はなく、現在シリアを占領している反政府勢力と戦う必要がなくなることを望んでいるとしている。それなのになぜ、我々(国)は全く正反対のことをするのだろうか?」と、オルメルト氏はBBCワールドサービスの番組「ニューズアワー」に語った。
そして、「我々には対処すべき問題が十分にある」と付け加えた。
ネタニヤフ氏の発表の前日には、シリア暫定政府を率いるイスラム武装組織「ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS、「シャーム解放機構」の意味)」のアフメド・アル・シャラア代表が、イスラエルによるシリアの軍事目標への空爆を非難した。
イギリスに拠点を置くNGO「シリア人権監視団(SOHR)」によると、アサド政権が崩壊した8日から、イスラエルの空爆が450回以上記録されている。
アブ・モハメド・アル・ジョラニという名でも知られるアル・シャラア代表は、シリアは近隣諸国との紛争を望んでいないとしつつ、イスラエルの空爆は「レッドラインを越えた」もので、同地域の緊張を激化させる危険性があると述べた。
同代表はシリアTVに対し、「長年の紛争と戦争で疲弊したシリアは、新たな対立を許さない」と語ったと、ロイター通信は伝えた。シリアTVは内戦中、反政府勢力寄りとみられていた。
イスラエル国防軍(IDF)はアル・シャラア代表の発言についてコメントしていない。IDFは先に、武器が「過激派の手に渡る」のを阻止するために空爆が必要だと述べていた。
シリアのアサド前大統領とその家族は、HTS率いる反政府勢力が電光石火の攻撃を仕掛けた際にロシアに亡命した。
同勢力は、アル・シャラア代表をトップとするシリア暫定政府の樹立のために活動を継続している。
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は14日、米政府がHTSと直接接触したことを明らかにした。アメリカと複数の西側諸国は今も、HTSをテロ組織に指定している。
国連のゲイル・ペデルセン・シリア担当特使は15日、シリア経済の回復を促進するため、同国に対する制裁の早期解除を望むと述べた。
シリア暫定政権やそのほかの関係者と会談するため、首都ダマスカスに到着したペデルセン特使は、「シリアの復興に向けた真の団結を実現できるよう、制裁の早期終了を実現できることを願っている」と述べた。
トルコのヤサル・ギュレル国防相は、同国政府はシリアの新政権に軍事支援を提供する用意があると述べた。
「新政権がどのような行動をとるか、見守る必要がある。我々は彼らにチャンスを与えることが必要だと考えている」と、国防相が語ったと、国営アナドル通信などのトルコメディアは報じている。
(英語記事 Israel plans to expand Golan settlements after fall of Assad)