アレックス・テリエン、 BBCニュース
ドナルド・トランプ次期米大統領がデンマークの自治領であるグリーンランドを軍事力で奪取する可能性を否定しなかったことを受け、ドイツとフランスは8日、トランプ氏に対して警告を発した。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、「国境不可侵の原則は、非常に小さな国であろうと非常に強力な国であろうと、すべての国に適用される」と述べた。
フランスのジャン=ノエル・バロ外相は、「欧州連合(EU)が他国に主権を侵害されることを許すことはあり得ない」と語った。
トランプ氏は7日、グリーンランドを取得したい意向をあらためて表明し、この北極圏の島がアメリカの国家および経済の安全保障にとって「重要」だと述べた。
トランプ氏は大統領1期目の2019年にグリーンランド購入の意向を示して以来、繰り返しその関心を表明している。
アメリカの長年の同盟国であるデンマークは、グリーンランドは売り物ではなく、その住民に属するものだと明言している。
グリーンランドのムテ・エーエデ自治政府首相は、デンマークからの独立を推進する立場だが、同じくグリーンランドが売り物ではないと明確に述べている。エーエデ氏は8日、デンマークの首都コペンハーゲンを訪問した。
「弱肉強食の時代に戻った」
ドイツのショルツ首相は、次期米大統領の発言には「ある種の理解しがたさ」があると述べた。
そして、「国境の不可侵の原則は、東西を問わずすべての国に適用される」と強調した。
デンマークは、ドイツやフランスと同様、アメリカ主導の北大西洋条約機構(NATO)の一員。
ショルツ首相は、「NATOは我々の防衛にとって最も重要な手段であり、また大西洋を越えた関係の中心だ」と強調した。
フランスのバロ外相は、同国のラジオ局アンテルに出演した際、「アメリカがグリーンランドを侵略すると思うかと問われれば、答えはノーだ」と述べ、こう続けた。
「だが、我々は弱肉強食の時代に戻ったのかと問われれば、答えはイエスだ」
「だからといって、我々が脅されて不安に打ちひしがれるべきかと問われれば、明らかにノーだ。我々は目を覚まし、力を蓄えなければならない」
ドイツとフランスは、EUの主要な推進力とされる二大国だ。
しかし、EUが潜在的な攻撃をどのように防ぐかを想像するのは難しい。EU自体には防衛能力がなく、27加盟国のほとんどがNATOに所属している。
「軍事活動に重要」とトランプ氏
トランプ次期大統領は7日、米フロリダ州の私邸「マール・ア・ラーゴ」での記者会見でこの発言を行った。1月20日の就任宣誓式まで2週間を切っている。
グリーンランドやパナマ運河を手に入れるために軍事力や経済力を行使することを否定するかと問われた次期大統領は、「どちらについても保証はできない」と答えた。
「しかし、これだけは言える。我々には経済的な安全保障のために、それらが必要だ」
グリーンランドには冷戦時代からアメリカのレーダー基地があり、アメリカ政府にとって長い間、戦略的に重要な場所となっている。
次期大統領は、中国やロシアの船舶を追跡するための軍事活動にとってグリーンランドが重要だと示唆し、「彼らはそこらじゅうにいる」と述べた。
「私は自由世界を守ることについて話している」とも、次期大統領は語った。
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は7日、デンマークのテレビに出演し、「グリーンランドはグリーンランド人のものであり、その未来を決めるのは地元の住民だけだ」と述べた。
一方で、デンマークにはアメリカとの緊密な協力が必要だとを強調した。
グリーンランドのクノ・フェンカー議員はBBCに対し、住民はトランプ次期大統領からの「大胆な発言」を予期していたが、島の「主権と自決権には交渉の余地がない」と述べた。
グリーンランドの与党連合の一員であるシウムート党に所属するフェンカー議員は、地元当局は「アメリカや他の国々との建設的な対話と、相互利益のあるパートナーシップ」を歓迎すると述べた。
フェンカー議員は、デンマークとアメリカの両方を含む自由連合を排除しなかったが、「これはグリーンランドの人々が決めるべきことであり、一人の政治家が決めることではない」とした。
グリーンランドの人口は5万7000人ほど。広範な自治権を持っているが、その経済は主にデンマーク政府からの補助金に依存しており、デンマーク王国の一部であり続けている。
また、バッテリーやハイテク機器の製造に不可欠なレアアース(希土類)の埋蔵量は世界有数の規模を誇る。
グリーンランドの首都ヌークで取材しているデンマーク放送協会のステフェン・クレッツ国際担当上級特派員は、話を聞いたほとんどの人が、トランプ次期大統領が軍事力を行使して領土を掌握する可能性を否定しなかったことに「ショックを受けた」と述べたとした。
また、グリーンランドの大多数の人々は将来的な独立を望んでいるが、デンマークが現在提供しているような公共サービス、防衛、経済基盤を提供できるパートナーが必要であるという認識が広まっていると述べた。
「グリーンランドがアメリカのような外部の大国の植民地になることを夢見ている人にはまだ会ったことがない」
クレッツ氏はBBCに対し、デンマーク政府はトランプ氏との対立を「ささいなことだと思わせようと」しているが、「舞台裏では、この対立がデンマークの現代史における最大の国際危機になる可能性があると認識しているように感じる」と述べた。
7日には次期米大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が、住民たちと話すための「個人的な日帰り旅行」だとして、グリーンランドを訪問した。
トランプ・ジュニア氏はその後、バーでトランプ氏支持の帽子をかぶったグリーンランド人のグループと一緒に撮った写真を投稿した。
(英語記事 Germany and France warn Trump over threat to take over Greenland