2025年1月10日(金)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年1月9日

 バイデン大統領は1月3日、国家安全保障上の懸念を理由に、日本製鉄によるUSスチールの買収を禁止する大統領令を発表した。この買収計画は対米外国投資委員会(CFIUS)で審査されていたが、審査結果が全会一致とならなかったため、規定によりバイデン大統領に判断が委ねられていたものである。同盟国である日本の企業による米国企業の買収を米国大統領が禁止したのは今回が初めてとなる。

日本製鉄によるUSスチールの買収は何が問題だったのか(AP/アフロ)

 それではバイデン大統領が未曽有の決断を下すほど、今回の買収案は問題のあるものだったのだろうか。実はそのような「問題」が「ない」にも関わらず、現状のような状況になっていることが問題なのである。

「優れた」提案も阻止された背景

 今回の日本製鉄の買収案は、自社の利益のみを考えるのではなく、USスチール側やその地元や労働者にも配慮した、「優れた」内容の提案であった。買収提案発表後も、買収後に雇用の削減や施設の閉鎖を行わないし、生産の海外移転も行わないと発表していた。

 取締役の半数以上を米国籍にするとも述べていた。また、雇用の創出などに向けての巨額の追加投資も明らかにしていた。

 当初は戸惑い反対の態度すら見せていたUSスチール労組や地元も、そのような日本製鉄の姿勢によって次第に好意的な反応を見せるようになっていた。USスチールは、粗鋼生産高で全米第3位と苦戦しており、また中国製の安い鋼鉄に押されてピッツバーグの製鉄所の閉鎖の可能性も議論されていた。

 そのような中、日本製鉄に買収されることで新たな投資を受け、設備を刷新して新しい技術を取り入れ発展する可能性も地元が買収に好意的な理由の一つであった。この流れでいけば買収は実現可能にも思われた。

 にもかかわらず、タイミングが潮目を変えることとなる。買収合意が発表されたのは、2023年12月であったが、24年は4年に一度の大統領選挙の年であった。しかも、USスチールの本社があるピッツバーグは、大統領選挙の激戦州の中でも最重要州の一つとされるペンシルベニア州にあり、同州の労働者の票をとれるかが勝敗を左右するとされていた。

 トランプ候補は、24年1月に早速この買収について、「ひどい話だ」として、自分が大統領に再選されたら、「即座に阻止する、絶対にだ」と述べて批判した。経済ナショナリズムを売りにするトランプが、労働者を前にして、日本企業による買収を許さないとするのはある程度予想できたことであった。


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