2024年12月22日(日)

キーワードから学ぶアメリカ

2024年3月26日

 ジョー・バイデン大統領が日本製鉄によるUSスチールの買収に否定的なコメントを出したことが注目を集めている。1世紀以上にわたって米国を象徴する鉄鋼会社であり続ける同社を国内で所有・運営し続けることが重要だ、というのがバイデンの発言の趣旨であり、買収に反対だと述べたわけではない。共和党大統領候補の座をほぼ確実にしたドナルド・トランプは同買収計画に明確に反対しており、この問題は大統領選挙を前に注目されている。

日本製鉄によるUSスチール買収は、どのような方向へと動くのか(Jeff Swensen/gettyimages)

厳格化する外国企業による買収への審査

 同買収については、対米外国投資委員会(CFIUS、シフィウスと発音する)が認可審査を始めているとされる。CFIUSとは、連邦政府の省庁横断的組織の一つで、ジェラルド・フォード政権期の1975年に設立されたものである。

 米国の企業や事業に対する外国の直接投資が安全保障に及ぼす影響を検査するのが任務である。国防総省、国務省、商務省などの16の省庁代表者と、最近では国土安全保障省がメンバーに含まれており、財務長官が議長を務めている。外国企業による買収に関係する企業は自発的にCFIUSに通知するよう求められているが、通知を受けていない取引についてCFIUSが調査をすることもある。

 経済安全保障に関する懸念が増大する中、トランプ政権期の2018年に外国投資リスク審査現代化法が通過し、CFIUSが審査する対象取引が拡大され、審査手続きも強化された。バイデン政権も22年9月にCFIUSが重点的にフォローすべき分野と要因を定めた大統領令を発している。

 同大統領令で強調されたのは、1.サプライ・チェーンの強靭性及び安全保障への影響、2.安全保障に影響を及ぼす分野における米国の技術面におけるリーダーシップへの影響、3.国家安全保障に有害となる可能性のある産業での投資の傾向(単一の投資とすれば危険性は少ないとしても過去の取引との関連で危険性がある場合など)、4.安全保障に損害をもたらす恐れのあるサイバーセキュリティ上のリスク、5.米国人の機微な情報に関するリスクの5点である。

 これらは経済取引が米国の安全保障に及ぼす危険性に対する認識が米国内で強まっていることの表れであり、バイデンとトランプの発言もその延長線上に位置づけられる。両者の発言が、今年の大統領選挙を念頭に置いていることは間違いない。CFIUSの審査中と思われる時期に大統領が買収案件の賛否に関して発言するのは異例である。


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