2026年10月24日(土)

巨大災害時代を生き抜く

2026年10月24日

 「勝手に『熊本には地震は来ない』と思っていました。なぜかと言うと、町には布田川断層帯があるのですが、政府の調査では布田川区間で30年以内に大地震が発生する確率は1%未満だと聞いていたからです」

熊本工業高校野球部出身の西村さん。野球に例えて、素振りの重要性を語ってくれた(WEDGE)

 2014年から町長を務める西村博則さんにとって、10年前の地震はまさに想定外の出来事だった。

 「地震は私の想定をはるかに超えていました。4月14日の前震では、頑張れば何とかなるかなと思っていましたが、16日の本震では、庁舎や総合体育館など、町が壊滅的な被害を受け、正直、心が折れそうになりましたね」

 そうした中、どのような思いで、復旧・復興を進めてきたのか。

 「復興計画の策定では、町民一人ひとりの思いを計画に反映するため、計21回、延べ約1600人の方々と意見交換を重ねました。この過程があったからこそ、その後の取り組みを町民の方に信頼していただけたのではないかと思います。

 ハード面では、県道の4車線化や防災設備を備えた避難地を整備したほか、新庁舎は免震構造にし、総合体育館は地震に強いトラス構造にして空調設備も整えました。今年7月の地震では震度6強を観測しましたが、庁舎や体育館はほとんど被害がありませんでした。

 それ以外にも、同時被災の可能性が低い複数の自治体や民間企業・団体と災害協定を締結したほか、発災時に各課単位で動いていた体制を見直し、状況に応じて柔軟に動員できるようにしました」

 様々な取り組みの中でも特にこだわっているのが、「防災訓練」だ。

 「恥ずかしながら、16年までは私が話す言葉まで決まっているような予定調和の訓練しかしておらず、全く役に立ちませんでした。その反省から、現在は内容を事前に明かさない『実戦型訓練』に切り替えています。例えば、朝6時から抜き打ちで、『大型台風が来て、山が崩れて……』と複合的に災害が発生することを想定した訓練を行っています。

 災害対応では瞬時の判断が求められます。前回の地震では、前震が起きた時、約2000人の町民が総合体育館に避難してきましたが、その時点で天井パネルが数枚はがれていたため、私は『受け入れは危険』と判断しました。本震では体育館の天井が全て崩落しましたが、もし受け入れていたら、多くの死傷者が出ていたかもしれません。首長として的確な判断をするためにも、私自身が防災力を誰よりも身に付けなければならないと思って訓練に臨んでいます」

「空振り」を決して恐れない

 「2度の震度7」を経験した西村さんだからこそ伝えたい教訓とは何か。

 「台風や大雨の時など、町民を避難させるか悩んでしまうことも多くありますが、職員には〝空振り〟を恐れるなと、たとえ予想が外れたとしても『空振りではなく、素振りをした』と捉えるよう伝えています。素振りをすればするほど、防災力は身に付きますから。

 講演などをしていても、聴衆者によって、防災に対する温度差を感じる場面があります。災害は『経験しなければ意識が変わらない』ではいけない。各地で起きた災害を自分事として捉え、その教訓から行動を変えてもらいたいですね」

 今回の熊本県の経験が示すように、一度被災した地域が再び災害に襲われない保証もない。益城町のように、辛い災害の記憶を「教訓」へと昇華させ、命を守るための備えを「平時」からできるかどうかが、日本で生きる私たちに問われている。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2026年11月号より
ニヒリズムを超えて 巨大災害時代を生き抜く
ニヒリズムを超えて 巨大災害時代を生き抜く

東日本大震災から15年の月日が流れた2026年。7月には令和8年熊本地震が発生し、千葉県では複数回にわたって浸水被害が起きた。日本において自然災害の危険性は尽きないどころか、甚大な被害をもたらす都市型水害など新たな脅威にも向き合っていかなければならない時代になった。巨大災害を前にして人間は無力である。だからといって、ただ茫然自失として待つだけでよいのか。事前の備えに100%はない。それでも、自分たちができる最善の対策を行い、諦めることなく「減災」の思考を持ち続けるべきだろう。巨大災害時代を生き抜くために変えるべきこと、守るべきことを改めて考えたい。


新着記事

»もっと見る