2026年10月27日(火)

Wedge REPORT

2026年10月27日

 聞き慣れた声が流れると、私たちは、その声の主や出演作品を思い浮かべる。声優の声に感じる魅力には、声質だけでなく、その人が演じてきた役柄や、作品に触れた私たち自身の記憶が重なっている。生成AIによる声の自動生成が突きつけるのは、こうして育まれた価値をどうしていくかという問題である。

( metamorworks / monsitj / Sing Kuen Yip /gettyimages)

自分の知らないところで広がる声

 蓄音機や電話、ラジオなどの技術によって、私たちは以前から、その場にいない人の声を聞いてきた。それらの声の多くは、本人が一度は実際に口にした言葉だった。

 もちろん、ボーカロイドなど本人が口にしていない言葉を音声にする技術は以前からあったが、契約や使用許諾条件に基づいていた。それに対し、急速に普及した生成AIによって横行したのは、本人の許諾を得ないまま、その人を思わせる声で新たな言葉を自動生成し広める行為である。

 声は、テキストと同じように、ひとたび発せられると本人の手を離れ、思いがけない場所に届き、思いがけない意味を帯びる。生成AIは、その隔たりをさらに押し広げる。

 本人の了承を得ないまま、本人の声を素材に、口にしたことのない言葉を語らせるのだ。聞き慣れた声が、本人の知らないところで、本人の選ばなかった言葉を語り、広がっていく。

 聞き手も、この問題の外にはいない。本人に似た声で商品が宣伝されれば、聞き手はその人の推薦だと思うかもしれない。

 声には、話している人を思い浮かべさせ、その人への親しみや信頼を呼び起こす働きがある。その働きが、本人の知らないところで利用される。聞き手が人工音声かどうかを見抜く注意力だけに頼ってはならない。

 声優の津田健次郎さんが、自身の声に似せた生成AI音声を使用した動画が無断で投稿されたとして、TikTokの運営会社に動画の削除を求めた訴訟で、東京地裁は2026年9月30日、人の声が「個人の人格の象徴」としてパブリシティ権に含まれ保護対象になり得るとの判断を示した。パブリシティ権は、人格権に由来し、氏名や肖像などが持つ、人を引きつける商業的な価値を保護する権利である。ただし、対象の投稿は既に削除されていたため、請求は棄却されている。

 この判断には大きな意義がある。声優や俳優の場合、その魅力は、訓練や演技、作品への参加の中で育まれる。役をどのように解釈し、どこで息を吸い、言葉にどのような感情を込めるか。そうした試行錯誤の中で声は生じる。


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