2026年11月8日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2026年11月8日

 地震、暴風、豪雨、疫病……。天変地異が続く現代は、鎌倉時代初期に書かれた『方丈記』の世界とよく似ているといわれる。作者の鴨長明が見つめたのは、大火や飢饉の惨状と、人はどこで、どう暮らせば幸せなのかという問いだった。

[野村]文紹 著『肖像』1之巻,[書写者不明],[18--]. 国立国会図書館デジタルコレクション

 東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTでは、この古典を題材にした企画展が開催中だ。授業で「ゆく河の流れは絶えずして」しか読まなかった人にこそ、全体像を知ってほしい。その入口となるのが、平易な現代語訳の『超約版 方丈記』(城島明彦訳、ウェッジ刊)である。

東日本大震災で再評価された「世界初の災害文学」

 『方丈記』は長編と思われがちだが、原文は400字詰め原稿用紙で約20枚、8000字ほどの短編にすぎない。学校で習うのは冒頭の一部だけで、全文を通読した人は意外に少ない。無常観だけでなく、「家のあり方」や「災害記録」という側面を持つ点も、あまり知られていない。

 『方丈記』に大きな注目が集まったのは、東日本大震災の翌年、執筆から800年にあたる2012年だった。長明が23歳から31歳の間に体験した「五つの厄災」が、迫真の筆致で記されていたからだ。地震、大火、竜巻(辻風)、飢饉という四つの災害と、福原遷都という一つの人災である。

 なかでも1185年の大地震は、推定マグニチュード7.4とされる。阪神・淡路大震災のマグニチュード7.3を上回る規模だった。安元の大火では平安京の約3分の1が焼失し、養和の飢饉では、京の路上の遺骸を数えると4万2300余に達したという。長明は自分の目で見たものを記した。〝ノンフィクションライターの先駆者〟と呼ばれるゆえんである。


新着記事

»もっと見る