「どこに住んでも、生きづらい」が生み出した小さな庵
権力者の隣に住めばびくびくし、貧しければ金持ちの隣で卑屈になる。狭い土地は火事が怖く、辺鄙な土地は盗賊が怖い。世間に順応すれば苦しく、背を向ければ変人扱いされる。800年前の嘆きは、住宅事情や人間関係に悩む現代人の本音と驚くほど重なる。
長明が最後にたどり着いたのは、一丈(約3m)四方、高さ約2.1mの庵だった。土台を組み、継ぎ目に掛け金をかけるだけの組み立て式で、気に入らなければ解体して移せる。荷物は車2台分。琴と琵琶は折りたたみ式や分解式を選び、狭い空間を有効に使った。
食べ物は野菊の若葉や木の実、衣は藤のつるで織った布。それでも長明は「ただ、静かなるを望みとし、憂へなきを楽しみとす」と言い切る。一方で、琵琶を奏で、10歳の山番の子と山を歩く暮らしは、禁欲一辺倒ではない自然体の魅力にあふれている。〝リモートワークの先駆者〟〝YouTuberの先駆け〟とも読める、多面的な人物像も興味深い。
いま、デザインの現場も「方丈の庵」に注目
この庵に、現代のクリエイターたちも注目している。21_21 DESIGN SIGHTの企画展「方丈記に学ぶ―生きるを編み直す小さな建築―」は、約9㎡の庵を手がかりに、建築家やデザイナーらが素材・構造・道具を通して小さな建築を構想する内容だ。暮らしと建築を見つめ直す試みとして、古典が展示という形で現代の問いに接続されている。
災害が相次ぎ、働き方も住まいも見直しを迫られる今、長明の言葉は驚くほど現代的だ。大火や飢饉の描写に加え、「足るを知る」暮らしの哲学もある。通読すれば、学校で学んだときの印象は覆るはずだ。とはいえ、原文は旧仮名遣いや古語のため、敬遠されがちである。
『超約版 方丈記』は、原文の意図を重んじつつ、補足も交えて大胆に現代語へ訳した一冊だ。各項に「訳者からのコメント」が添えられ、巻末には総ルビの原文と解説も収録されている。展覧会に出かける前でも後でも、手元に置いておきたい。あなたにとっての「方丈の庵」を考えるきっかけとして、ぜひ手に取ってほしい。

