2026年10月30日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年10月30日

 オバマ政権で人権担当国務次官補代理も務めたスザンヌ・ノッセルが、トランプ政権で失った国際的な信頼を人権分野で取り戻すための鍵は「市民的多元主義」の推進にあるとする論説をForeign Policy誌(ウェブ版)に10月5日付で寄稿している。概要は次の通り。

(Domingo Saez Romero/GraPro/gettyimages)

 米国は過去80年間、国際社会で人権と自由の擁護者を自任してきた。共和・民主両党の政権が民主主義や人権という価値を掲げ続けたことは、米国の世界的指導力に独自の正統性を与えてきた。

 しかし、トランプ政権はこの「価値に基づく指導力」を大きく損なった。国際開発局(USAID)を解体し、人権・民主主義支援への資金を削減するとともに、移民政策や国際刑事裁判所への姿勢などを通じて、米国自身が築いてきた国際的な人権規範への軽視を示した。トランプ後の米国が、かつてのように民主主義と人権の「模範」を名乗ることはもはや難しい。

 それでも米国は、誠実な行動と国際協力を積み重ねることで、失われた信頼を徐々に取り戻すことができる。その出発点とすべきなのが「市民的多元主義(civic pluralism)」である。

 これは、宗教、民族、出自、信念、文化、生活様式の異なる人々が、互いの違いを認めながら、共通の政治共同体の対等な構成員として共存するという理念である。単なる「寛容」にとどまらず、特定の宗教、民族、思想集団が国家権力を利用して他者を従属させることを防ぐ制度を必要とする。「多数から一つへ(E pluribus unum)」という米国の理念そのものでもある。

 大量移民、人口構成の変化、社会の分極化、宗教的対立が進む今日、この多元主義は世界共通の課題になっている。

 そのモデルとなるのが「イスタンブール・プロセス」だ。2000年代、イスラム諸国は「宗教への冒瀆」を国際的に禁止するよう求めたが、米国や欧州は、表現の自由を損なうとして反対した。

 そこでオバマ政権は2010年、発想を転換した。「宗教そのもの」を批判から守るのではなく、「宗教を信じる人々」を差別や暴力から守るという考え方である。

 宗教共同体との対話、ヘイトクライムの把握・訴追、警察官の訓練など具体的な措置を提示し、11年には国連人権理事会で合意が成立した。その後、この枠組みは米国とイスラム諸国が協力できる貴重な制度として定着した。

 トランプ後の米国は、このイスタンブール・プロセスを再活性化すべきである。パキスタン、トルコ、英国などと協力して年次のハイレベル会合を復活させ、デジタル時代に適した多元主義のあり方を模索する。これは他国に選挙制度や憲法、文化的価値観を押し付けるものではなく、普遍的人権を守りながら各国の多様性を尊重する外交となる。


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