2026年10月30日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年10月30日

 この論説のキーワードである「市民的多元主義」は、多様性を認め、違いを乗り越え、一つに収斂するという理想が込められた概念だ。建国以来の米国の根本原理であり、「E pluribus unum」(多数から一つへ)はドル紙幣にも記されている。移民立国アメリカが「メルティング・ポット」を掲げたのも同じ発想だ。ノッセルは、ここに米国の誇るべき価値があり、そこに立脚して再び信頼を取り戻すと主張する。

 しかし、現実は、米国自身が「市民的多元主義」を実践する上で困難に直面している。世界を論じる前に、米国自身を直視しなければならない。トランプ政権を生んだのは「市民的多元主義」を受け入れられない人々なのだから。

 世界には「市民的多元主義」を受け入れられない国家がある。しかも、トランプ大統領の外交運営で信頼と権威と評判を落とした間隙をぬって、全体主義国家が国際社会における影響力を伸長させている。

時間は切迫している

 国際社会の冷徹な現実は、トゥキディデスが喝破した2400年前の古代ギリシアの時代と変わっていない。国際秩序が秩序として機能するためには、秩序自体の内在的な価値とその秩序を機能させるための覇権国の意思と力が必要だ。「アメリカ・ファースト」の名の下に、秩序の「価値」も「意思と力」も放棄したトランプ政権による傷は計り知れない。

 かつて、チャーチルは「アメリカは最終的には妥当な判断を下す。ただし、全ての選択肢を試みた後で」と言ったとされる。第2次世界大戦初期、孤立主義な世論に引っ張られていまだ参戦に踏み切れないでいる米国に決断を促す意図だったと解されている。

 今、チャーチル的な発想で米国を見れば、トランプという選択肢を試した後で、米国の信頼と影響力を取り戻すための議論が始まった。時間は切迫している。国内的な相克を乗り越えて、国際場裡でのリーダーシップを発揮することが期待される。

民主主義は人々を幸せにするのか?▶アマゾン▶楽天ブックス▶honto
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る