日本のアニメや漫画、ゲームなどのコンテンツが、世界で存在感を高めている。日本の食や地域産品への関心も高まり、「日本の魅力」が海外需要につながる機会は、この十数年で大きく広がった。その一方、日本の商品やサービス、コンテンツなどの海外展開を後押しするためにつくられた官民ファンド、海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)は、2026年3月末の累積損益が▲540億円となり、修正後計画の目標である▲426億円を大きく下回った。
この数字だけを見て、クールジャパン機構を「失敗」と結論づけるのは早いが、「日本文化の海外発信に貢献したのだから赤字は仕方がない」と財務面の結果を軽視することも適切ではない。重要なのは、540億円という数字の意味を正確に理解し、政策目的を実現するために合理的なリスクを取った結果として生じた損失と、案件選定など投資としての失敗によって拡大した可能性のある損失を区別することである。
経済産業省では、「海外需要開拓支援機構の検証等に係る検討会」を設置し、第三者・専門家による検証を進めている。本稿の目的は、検討会の結論を先取りしてクールジャパン機構に「成功」「失敗」の判定を下すことではない。540億円という累積損益をどう理解すべきか、政策的に必要なリスクと投資・経営上の問題をどう区別すべきか、そして今後の産業政策に何を学ぶべきかを提示する。
なぜ累積損益540億円が生じたか
まず「累積損益▲540億円」は「投資で540億円を失った」という意味ではない。設立以来の人件費、租税公課、調査費、賃料などの運営費、EXIT済み案件の実現損益、そして現在保有している投資先の価値低下が含まれている。保有中の投資については最終的な回収額がまだ確定していないので、540億円がそのまま「国民負担」になるかは現時点ではわからない。
では、なぜこれほど損失が生じたのか。クールジャパン機構には、通常の民間ファンドとは異なる構造的な難しさがあった。
第一は、政策目的と投資収益という二つの目的を同時に求められたことである。12年のクールジャパン戦略では、中小企業への「リスクマネー供給の不足」が海外展開のボトルネックの一つとされた。海外市場の開拓には時間がかかり、消費者の嗜好などにも左右される。民間企業や投資家だけでは取りにくいリスクを政府も負担し、政府資金を「呼び水」として民間投融資を誘発することが制度の基本的な発想だった。
しかし、補助金と投資は違う。補助金であれば、政策効果を得るために資金を支出し、その資金自体の回収までは求めない。一方、官民ファンドは投資であるため、政策効果を実現すると同時に、投資した資金を回収することも求められる。クールジャパン機構は最初から、政策的リターン、財務的リターン、民間への波及効果という複数の目的を背負っていたのである。
