日本では人口減少が加速し、多くの地域が「これから何を産業の柱にするのか」という問いに直面している。政府は半導体、AI、グリーントランスフォーメーション(GX)、宇宙、バイオなどを「戦略17分野」として位置づけている。
その中に「観光」が入っていない。だが、それは観光の重要性が低いことを意味しない。むしろ逆である。
観光は、半導体やAIのような単独の縦割り産業ではない。農業、漁業、製造業、交通、宿泊、飲食、文化芸術、コンテンツ、教育、医療、地域金融、不動産など、様々な産業と地域資源を横断的につなぎ、体験として市場化する産業である。つまり観光は、個別産業の一つというより、複数の産業を結び直して価値を生み出す「編集産業」であり、「接続産業」なのである。
この意味で、観光は17分野の外側にあるのではない。むしろ17分野を地域に実装し、日本の自然、文化、暮らし、技術、コンテンツ、食、移動、データと結びつける横断型の国家インフラとして捉えるべきである。
そのような問題意識を正面から打ち出したのが、日本観光振興協会の中長期ビジョン「2040年、日本を価値創造型観光大国へ」である。本ビジョンは、日本観光振興協会が設置した検討会で策定された。筆者が座長を務め、JTB、日本旅行、KNT-CTホールディングス、JR東日本、ANA、JAL、オリエンタルランド、三井不動産、西武・プリンスホテルズワールドワイド、日本空港ビルデング、ICT企業、DMO、旅館など、多様な業界の実務者が参画し、約1年にわたる議論を経て取りまとめられた。
観光を「余暇」から「価値を生む活動」へ
このビジョンの最大の意義は、観光を「余暇」や「消費活動」ではなく、「価値を生む活動」として再定義した点にある。
従来の観光政策では、訪日客数、宿泊者数、旅行消費額といった量的指標が中心に置かれてきた。もちろん、それらは重要である。しかし人口減少が進み、地域の担い手が不足し、生活インフラの維持すら難しくなる時代において、観光客の数を増やすだけでは地域の未来は描けない。
重要なのは、「何人来たか」ではなく、「どれだけ地域に価値を残したか」である。
そこで本ビジョンが提示するのが「価値密度最適化」という考え方だ。これは、来訪者数と単価の二項対立を超え、滞在時間、地域との関係性、再訪率、住民満足度、観光収益の再投資水準などを総合的に捉え、地域ごとに最適な観光のあり方を設計する発想である。
