第二の難しさは、投資対象の広さだった。クールジャパンというと、現在ではアニメ、漫画、ゲームを連想する人が多い。しかし支援対象は、衣食住関連商品、サービス、先端テクノロジー、レジャー、地域産品、伝統産品、教育、観光まで含まれていた。
24年11月時点の投資決定額1497億円も、メディア・コンテンツ約506億円、ライフスタイル約508億円、食約199億円、インバウンド約233億円、分野横断約51億円と広範囲に及んでいた。「日本の魅力」を世界の需要につなげるという国家ブランド戦略として、対象が幅広いことには意味がある。しかし、それを一つの投資ファンドで扱う難易度は高い。アニメ、日本食、小売、ファッション、観光施設では、産業構造、成功要因、必要な専門性、投資回収期間が大きく異なる。
さらに、13年の設立当時、日本企業の海外展開について再現性の高い成功モデルが十分に確立していたとは言い難かった。流通、EC、商業施設、情報発信、ローカライズなど、「日本企業が海外需要を獲得するための仕組み」そのものをつくることも、機構の重要な役割だった。機構には、成功企業を見つけるだけでなく、「日本の魅力を海外でどう稼ぐビジネスにするのか」という成功モデル自体を探索する役割まで期待されていたと考えられる。
とりわけコンテンツ産業は、少数のヒットが大きな収益を生む一方、多くの案件が期待通りの成果を上げないという性格を持つ。こうした分野で、政府系ファンドが事前に「勝つ案件」を継続的に選別することには、本質的な難しさがある。こうした多様な分野について、海外市場を理解し、事業性と投資価値の双方を評価できる人材を十分に確保することも容易ではなかっただろう。
政策目的と投資収益を同時に求められ、民間だけでは取りにくいリスクを取り、広範な産業を対象に、まだ確立していない海外事業モデルを探索する。一定の損失が生じやすい構造だったことは理解できる。しかし、「損失が生じやすかった」ことと、「実際に生じた損失の規模が妥当だった」ことは、まったく別の問題である。
海外展開への基盤整備と個別の投資判断
投資には、案件選定、投資価格、投資後の管理、追加投資、撤退判断という一連のプロセスがある。政策目的を持つ官民ファンドであっても、それぞれの段階で合理的な判断が行われたのかを検証する必要がある。
例えば、2024年3月までのEXIT案件による投資損失は約100億円だったが、そのうち約90億円が「コンテンツの海外展開プラットフォーム事業」に集中していた。この分野には、翻訳・ローカライズや海外販路開拓を担うSDI、日本の番組を海外に届けるWAKUWAKU JAPAN、アニメの正規版を海外配信するアニメコンソーシアムジャパンなどが含まれる。いずれも、日本のコンテンツを海外市場に届けるための仕組みを構築しようとする事業だった。
ここで重要なのは、海外展開のための共通基盤を整備するという政策目的と、その実現手段として特定企業に出資すること、さらに個別の投資判断の妥当性を区別することである。
政府には、海外市場情報、知的財産保護、海賊版対策、翻訳・ローカライズ、人材育成、契約・権利処理、物流、決済など、個々の企業だけでは整備しにくい共通基盤の形成を支援する役割がある。多くの企業やクリエーターが海外で競争するための「競技場」を整える仕事である。
実際、SDIのような事業は、複数の企業が利用できる海外展開の共通基盤という性格を持っていた。一方、海外向け放送や動画配信などは、共通の流通経路を提供するものの、特定企業が顧客を獲得し、競争の中で収益を上げる商業プラットフォームでもあった。両者は必ずしも同じではない。
こうした共通基盤は、政府が直接整備するだけでなく、民間事業への投資を通じて形成することもできる。しかし、政策的に必要な基盤であることと、それを担う特定企業が投資対象として優れていることは別問題である。
そもそも出資が最適な政策手段なのか。出資する場合にも、その事業が多くの企業に利用され、競争力と持続可能な収益モデルを確立できるのかを見極めなければならない。
