2026年10月28日(水)

Wedge REPORT

2026年10月28日

クールジャパン機構から何を学ぶべきか

 クールジャパン機構をめぐる議論を、「官民ファンドは失敗だった」「文化産業の発展に貢献した」という二者択一で終わらせるべきではない。重要なのは、この十数年間の経験から今後の産業政策に何を学ぶかである。

 13年の設立当時と現在では環境も変わった。市場が未形成の段階では、政府が一定のリスクを取り、市場形成を支援する合理性がある場合もある。しかし、市場が成長し、民間が自らリスクを取れるようになれば、政府の役割も変わるべきである。

 クールジャパン機構の経験からは、少なくとも六つの原則が浮かび上がる。段階投資や撤退基準など、投資実務では目新しくないものもあるが、官民ファンドの経験を通じて、公的な産業政策でも徹底すべき原則として改めて確認しておきたい。

 第一に、政策的リターンと財務的リターンを区別して測定する。 政策効果があれば投資損失を問わなくてよいわけでも、赤字なら政策効果がなかったわけでもない。

 第二に、政策目的から政策手段を逆算する。 なぜ出資なのか。補助金、融資、保証、規制改革、共通基盤整備などと比較し、最適な手段を選ぶ必要がある。

 第三に、段階投資を基本とする。 成功モデルが確立していない市場ほど、小さく始め、市場の反応や事業の進捗を確認しながら投資を拡大する。

 第四に、追加投資と撤退の基準を事前に設定する。 政策案件であるからこそ、一度支援した案件に資金を投入し続けるのではなく、明確な投資規律が必要である。

 第五に、市場の成熟に応じて政府の役割を変える。 民間がリスクを取れるようになれば、個別企業への支援から、データ、知財、人材、物流、海外ネットワークなど、多くの企業が利用できる共通基盤へ重点を移す。

 第六に、失敗を政策学習に変える。 投資時の前提、追加投資、減損、撤退理由などを検証可能にし、その経験を次の政策設計に生かす。

 これらはクールジャパンだけの問題ではない。半導体、AI、GX、宇宙など、政府が再び産業政策に深く関与する現在にも通じる。問われるのは、政府が産業に関与すべきか否かではなく、どこまで市場形成を支援し、どこから民間に任せるのか。そして、その介入に見合う専門能力、ガバナンス、投資規律を持っているのかである。

 政府には、企業やクリエーターが挑戦できる環境を整える役割がある。一方、どの企業やコンテンツが将来成功するかを政府が継続的に予測することには限界がある。

 クールジャパン機構の経験を540億円の「高い授業料」で終わらせないためにも、政府がつくるべきなのは、「勝者」ではなく「勝者が生まれる市場」なのである。

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