2026年10月30日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年10月30日

 ただし、多元主義は「何でも認める」ことではない。文化や宗教の名の下で、児童婚、女性の従属、LGBTQ+への迫害などを容認することはできない。集団の権利と同時に、その集団の内部にいる個人の権利も守らなければならない。

 トランプ政権が米国の国際的信用に残した傷は深く、短期間では修復できない。だからこそ、米国は再び世界に価値観を説く前に、自らが具体的行動によって信頼を取り戻さなければならない。

 その第一歩は、深く意見を異にする人々であっても、同じ政治共同体の対等な一員として共存できるという原則を守ることである。市民的多元主義こそ、米国が国際社会との関係を修復し、やがて人権と民主主義の分野で指導力を取り戻すための現実的な出発点となる。

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イスタンブール・プロセスの教訓

 この論説は、いかにも米国の論壇らしさを感じさせる。ノッセルは、単にトランプ批判をしているのではなく、トランプが傷つけた米国の国際場裡での信頼を回復するための具体策を提起している。しかも、トランプ第2期政権の信任投票の意味合いの強い11月3日の中間選挙を待つことなく。

 要するに、米国の論壇は、トランプ後のアメリカを具体的に語り始めたのだ。公権力ではなく、言論の力で、明日のアメリカの方向性を定めるべく、議論が始まった。ここに米国の民主主義の強靭さを見て取れる。

 ノッセルが主張する「イスタンブール・プロセス(IP)」について、2点指摘したい。第1に、「IP」は、国連人権理事会が11年に採択した決議に基づく、宗教的不寛容、宗教に基づく差別、憎悪や暴力の扇動への対処を目的とする国際的な対話・協力の枠組みだ。米国とイスラム諸国が議論の土台を共有した意義は大きい。

 だが、問題は、宗教的少数者を差別や暴力から守るという正当な目的が、宗教そのものへの批判を封じ込める方向に利用され得るという逆説だ。人権外交における「信教の自由」と「表現の自由」の緊張関係を象徴する。

 第2に、実は、「IP」会合は、11年の第1回ワシントン会合から第6回シンガポール会合までは毎年開かれたが、19年の第7回ハーグ会合以降は、開かれていない。国際場裡で、宗教が絡む問題を扱う難しさを直截に示した。トランプ後の国際社会で米国が人権分野での指導力を発揮するため「IP」から教訓は学べるだろうが、率直に言って、モデルにするのは甘いと思われる。


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