2024年4月26日(金)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年1月21日

 さらに、このエピソードにあるように、「伝えるタイミング」「1度に伝える内容の数や量」などについても、「適時」「適量」を見極める力がついてくる。すると、ますます人と心を通い合わせることは容易に、そして楽しくなってくる。

 「人と心を通い合わせることは豊かで楽しいこと」という方向づけと、それを実現する基本技術は、白紙状態である幼児期にこそ身につけておくべきこと。これが風の谷幼稚園の考え方であり、4歳児にそれを教える格好の教材が「なわとび」なのである。

 また、この一連の伝え方の指導は伝える側だけでなく、伝えられる側の視点からも考え抜かれている。例えば、自分である程度“できる”と思えることに対するアドバイスは素直に聞くが、“できない”と思うことに対しては他人の言葉を受け入れられないという子どももいる。このような子どもたちにとって、仲間たちからのアドバイスをもらうことにはどのような意味があるのだろう。

 まず、アドバイスをしてくれる仲間は、かつて「跳べない」「悔しい」という思いを味わっている。そのような仲間からの言葉は表面的な言葉ではないだけに、素直に受け入れやすいだろう。また、アドバイス内容が具体的であるということは、それを行動に取り入れやすいということでもある。とくに「なわとび」では、「肩を回す」「ひじを伸ばす」「このタイミングで跳ぶ」といったアドバイスは短期間で結果に結びつけやすい。つまりアドバイスの効果をはっきりと体感することができる。その結果、「人の指摘を受け入れることでうまくいった」という成功体験が体に刻まれるのである。

 「人の指摘を受け入れ、自分を変えていけるような力をもった人間に育って欲しい」

 「どんな指摘でも受け止め、自分の糧とできるようなたくましさを持った人間に育って欲しい」

 このような思いを胸に先生たちは日々の指導に当たっている。

最後には「強制執行」が待っている

 実際のカリキュラムが進行していく中で、多くの子どもたちが自主的に、そして仲間からの応援によって「なわとび」ができるようになるのだが、毎年数名は逃げようとする子どもが現れる。この場合、風の谷幼稚園ではどのような考えに基づいて、どのような指導が行われるのだろうか?

 「『みんなでなわとびをやろう』と言っているのに、やりたがらない子どもに理由を聞くと、例えば『砂場遊びがしたい』と他にやりたいことがあるかのように答えることがあります。しかし、よくよく観察してみれば『できないことがイヤ』で目の前の現実から逃げようとしていることが圧倒的に多いのです」(天野園長)

 つまり、目の前の現実から逃れようとすることを許してしまうと、結局その子どもの中には「逃げ癖」がつく。この悪い癖は1度ついてしまうとなかなか治らないので、特に幼児期の大人の対応が重要になってくる。

 まず、風の谷幼稚園では、「なわとび」が始まってしばらくの間は「やりたくない」「他のことがやりたい」という子どもを敢えて見逃してやる。これは跳べるようになっていく仲間の姿に触れたり、仲間たちからの誘いによって自主性が生まれたりするのを待つためだ。しかし、ある期間が過ぎて2学期も終わりに近づくころには、もうお目こぼしはない。「強制執行」が行われることになる。


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