2024年12月26日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年8月25日

 胡政権のこのプロジェクトに懸ける思いを共産党関係者は明かす。「『循環型社会』を政治理念に掲げる胡錦濤プロジェクトであり失敗は許されない」。日本重視を掲げる胡は「曹妃甸」を日中経済協力のシンボルにしたい意向だという。

 そして日本企業の「曹妃甸巡り」は一種のブームとなっている。5月には訪中した御手洗冨士夫・日本経団連会長(当時)が、唐家璇前国務委員の案内で視察。日本側に売り込む唐山市トップの趙勇共産党委員会書記が共産主義青年団出身で、胡の直系であることが日本側の期待を膨らませている面も強い。

 一方で悲観的なのは日中関係筋だ。「日本企業はこれまで(トヨタ自動車などが進出した)天津に力を入れてきた。また日系企業が求めているのは中国でモノをつくり、それを中国で売ること。こうした狙いとは違う『曹妃甸』に果たして日本企業が目を向けるか」

 前出・日中関係筋は「鳩山前首相にいくら頼んでも無理」と指摘する。そこで対中ビジネス交渉の経験豊富な丹羽大使がこのプロジェクトにどう臨むかに注目が集まっている。

8月28日の「ハイレベル経済対話」に注目

 中国政府、民主党政権、日本企業の思惑が入り乱れる「曹妃甸」は、複雑な事情が絡む。

 日本側が中国側の強い要請にもかかわらず消極姿勢を続ければ、「中国は交渉相手を日本から韓国に乗り換える」(日中経済筋)との懸念も出ている。日中の「戦略的互恵関係」も掛け声倒れになりかねない。

 中国側にとって最大の懸念は、「曹妃甸」について民主党政権がどこまでやる気なのか、また誰を「窓口」にすればいいのか、つかめないことだ。鳩山は温に対して「菅総理、仙石官房長官からも曹妃甸に関しては『関心があるからしっかりやってほしい』という話があり、政府の考え方として政治主導でやらなければならない」と伝えたが、5月末に来日した温が、なぜ曹妃甸にそこまで固執するか理解できなかったという。

 中国はあるシナリオを描く。「民主党政権が『曹妃甸』を日本の官民プロジェクトとして『協力委員会』みたいなものを立ち上げ、丹羽大使が音頭を取る形で日系企業がこのプロジェクトに参加するよう促してもらう」(日中関係筋)。「政治主導」で起用された丹羽。中国は「丹羽大使は菅首相をはじめ民主党首脳と直結している」(中国の対日当局者)と見て接近をさらに強めるだろう。

 その最初の舞台は、8月28日に北京で開かれる閣僚級の「ハイレベル経済対話」になる。「曹妃甸」も議題になる見通しだが、中国からの強い要求と、あまり乗り気でない日本官民。そして、機微な情報が漏れることを懸念し、丹羽をまだ警戒の目で見る三菱商事や三井物産などのライバル商社。こうした複雑な関係を調整し、どこまで「官」と「民」の橋渡し役を務め、中国との「戦略的互恵関係」を形あるものにするのか。得意の「経済」といえども山は多い。

重要なのは「中国社会の矛盾」をどうとらえるか

 逆に中国が自らは表に出してこない部分、つまり中国の「矛盾」をどうとらえるべきか、という問題を検証しよう。伊藤忠首脳として中国の「成長」を中心に見てきた「財界大使」にとっては関心の低い部分とも言える。

 例えば、丹羽は、中国の日系企業で相次ぐ賃上げ要求ストをどう見たか。赴任前の記者会見でこう述べた。


新着記事

»もっと見る