ちなみに、現状地と移転先の距離も重要です。ニューヨークのフルトン市場が、マンハッタンから北のブロンクスという場所へ移りました。それによってスペースが広くなりましたが、距離にして10キロ離れてしまい、小規模の小売業者が買いに行きづらくなってしまいました。それを考慮すると、築地と豊洲は直線距離で約2キロ。やはりこんなに良い地の利はないでしょう。
日本の水産業の未来のために
新しいことを始めると、どうしても反対する人たちが出てきたり、後ろ向きな意見が出てきたりしますが、例えば豊洲に移転したら、上層階を建設してレストランなど食事ができる場所を提供すれば、観光スポットにもなり得ます。そういった前向きな発想でとらえていくべきです。
それでも、場外流通の流れを止めることは難しいでしょう。しかし、市場には仲卸業者などの魚の目利きのプロがいます。場外の人たちは一般的にあまりそれを兼ね備えていないでしょう。そういった市場の強みをもっと磨いていき、生き残る術を模索していかなければなりません。
また、今の築地は、小さいサイズの魚も安いからといって取り扱ってしまっている。これは乱獲につながり、資源の枯渇の原因となりますので、消費者のニーズに応えると同時に、漁業者に対しても、資源を大切にするように築地から発信していってほしい。また、消費者にも、成長した状態で食べた方が、グラムあたりで考えれば得だということを知らせていかなければなりません。魚を今のサイズの倍まで成長させた状態でとれば、資源も倍になる。それを漁業者は1.5倍の値段で売り、消費者がそれを買えば2倍の大きさのものが1.5倍で買えることになり、誰もが得をします。
この問題はやっとスタート地点に立ったばかりです。しかも、水産資源の枯渇は進み、一刻の猶予もありません。今までかかってしまった時間を取り戻すためにも、大局的な視点をもって、本質の議論を進めていきましょう。
小松正之(こまつ・まさゆき):東北大学卒、エール大学経営学大学院修了(MBA取得)、東京大学農学博士号取得。 在イタリア大使館一等書記官を経て、水産庁漁業交渉官として捕鯨を担当。2000年から資源管理部参事官、2002年8月1日から2005年まで漁場資源課長。元国際捕鯨委員会(IWC)日本代表代理、元国連食糧農業機関(FAO)水産委員会議長、元インド洋マグロ漁業委員会日本代表。2005年4月から水産総合研究センターに理事(開発調査担当)として出向。2007年12月3日水産庁増殖推進部付。辞職。現在、政策研究大学院大学教授。著書に、『日本の食卓から魚が消える日』(日本経済新聞出版社)、『これから食えなくなる魚』(幻冬舎)など多数。2005年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。2010年行政刷新会議農林水産業地域振興WG委員(菅直人首相任命)
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