2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2011年3月14日

小松教授:それが本質論かどうかよく考えてください。もちろん、食の安全は担保しなければいけませんし、ベンゼンが国の環境基準値の43000倍検出されたというのは大いに問題ではあります。しかし、この汚染問題については、東京都が専門家や技術者たちの会合を進めており、必要な予算を計上して取り組めば解決できるという結論に至っています。これが正しいという前提ならば、それを進めることです。しかし、情報開示が遅れたり、説明責任を果たさなかったり、業者や市民を不安にさせる結果となってしまったという状況は否定できません。また、都が全く誤らないという保証もないとすれば、これから工事を進めるにあたっては、もっと反対派、賛成派、江東区及び中央区の住民も加え、大局観ある人を委員長にした委員会を設立して、そこで計画の運営・改善について都知事に対して勧告できるようにすることです。そして、ジャーナリストや一般市民の傍聴を許し、透明性をもってオープンな議論がなされるべきです。また、具体的な計画の運営には、東京都、行政のリーダーシップが欠かせません。

 「場外市場」の存在と築地という「文化」の喪失を訴えていますが、そもそも文化とは、産業が永続した結果としてできる付随的なものです。文化が先にあって産業を維持するものではありません。本質は、新しい東京中央卸市場の物流を、今後50年を見据えてどのように構築していくか、どのように良い市場を作っていくか、これに尽きます。そこに、文化が生じてきます。

描けないままの設計図

――本質の議論に必要な豊洲の設計図である「東京都卸売市場整備計画」を見ても、あまり具体的な記述がありません。

小松教授:今まで散々「本質」ではない議論の時間を割いてしまい、「移転する」とは決まったものの、具体的な構想が描けていません。何度で低温管理をするのか、駐車場をどうするのか、千客万来施設には何がどのように入るのか、築地のように一般開放するのか…。挙げればきりがありませんが、とにかくこれらのような重要な点について早く議論を始めるべきです。

 私が特に重要と考えるのは、物流、鮮度管理、施設を開放するかどうかの3点です。

 現在、築地は日本全国からトラックが入ってきて、駐車場もない中で違法駐車をしたり、入場してもすぐに出て行かなければならないため、水産物の扱いがぞんざいになってしまったりしています。計画性がなく卸されるので、入ってきたものもいつ誰が取り扱えばいいか分からない。非常に混乱しています。これからは、ある程度IT技術を導入して、卸される水産物を中央で制御し、鮮度を損なわないよう、いつどのタイミングで誰が取り扱うかを管理すべきです。そして、市場内のターレー(ターレットトラック)やお茶屋(荷物を預かる役割)など、旧態であって効率的でない仕組みを再考し、物流をスムーズにしていく必要があります。

高すぎる築地市場内の温度

 現在、築地市場は低温管理がほとんどできていません。人が魚のスペースを行き来するため、温度が15度に保たれていますが、ニュージーランドのオークランド市場は0度です。圧倒的に鮮度に差が出ます。ニューヨークは5度~8度程度ですが、移転前後で魚が3日から1週間まで長持ちするようになったそうです。また、オークランド市場では、IT技術をふんだんに導入し、水産物の保管スペースとセリが行われるスペースを分けています。こういったシステム面でも、日本は世界から遅れをとりつつあります。

 また、世界的に見ても、築地のように一般人が入場できる市場はほとんどありません。衛生面でも問題がありますので、基本的には閉鎖的にした方が良いと思います。ただし、ガラス窓などを設けて、外から見えるようにする程度の開放は必要かもしれません。それだけでも、一般客は十分に楽しめると思います。


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