2024年4月17日(水)

J-POWER(電源開発)

2019年10月20日

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米中貿易戦争が長期化の様相を呈し、ホルムズ海峡のきな臭さが鼻をつくほど漂う中、 地政学的リスクとエネルギー政策は切っても切れない関係にあることに多くの人が気づく。 だが、近視眼的対策はかえって危機を招く。大局的・長期的スコープからどうすべきか。 気鋭の国際問題ウォッチャーが、革新的石炭火力発電の最前線に、その答えの一端を見た。
 

CO2を再利用するという技術立国 日本の「逆転発想」

 CO2といえば、地球温暖化の張本人。そんな悪玉のイメージを覆す、逆転の発想ともいうべき技術が注目されている。「カーボンリサイクル」である。工場や発電所から出されるCO2を炭素資源として捉え、これを効率よく回収して燃料や原材料に再利用する仕組みだ。回収したCO2を地中に埋め戻す技術と組み合わせた、「CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯蔵)」と呼ばれる技術に期待が寄せられている。

 炭酸飲料やドライアイス、人工光合成などCO2の用途は幅広い。都市ガスの主成分となるメタンやウレタンなどの化学品、コンクリート、植物工場での生育増進などにも使うことができる。

 これに着目してCO2の排出抑制につなげるため、資源エネルギー庁内に今年2月、必要な技術革新を促すカーボンリサイクル室が開設。6月のG20エネルギー・環境大臣会合では、世耕経産相が各国に技術開発のロードマップを示して協力を呼び掛けた。

吉崎達彦(よしざき・たつひこ) 双日総合研究所 チーフエコノミスト 1960年富山県生まれ。84年一橋大学社会学部卒業、日商岩井(現・双日)入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会代表幹事秘書・調査役、日商岩井総合研究所調査グループ主任エコノミストなどを経て、2004年より現職。ブログ「溜池通信」は連載670回を超える人気サイト。著書に『アメリカの論理』『気づいたら先頭に立っていた日本経済』(ともに新潮新書)などがある。

 「いらないとされたものを再利用するという発想がいいですね。夢がある」

 そう語るのは、米国ウォッチャーとして知られ、国際問題を研究する吉崎達彦氏(双日総合研究所チーフエコノミスト)。化石燃料、とりわけ「石炭=悪」として切り捨てる最近の論調に対し、エネルギー安全保障の観点から疑念を呈する吉崎氏にとって、石炭不要論の根源であるCO2をいかに減らすかは大きな関心事となっていた。

 「環境や社会にいいものを重視するESG投資の精神は立派です。しかし、ことエネルギーに関しては、複合的な視点が欠かせません。現実に、世界の発電電力量の約4割は今でも石炭火力によるもので、先進国の論理だけでこれを排除してしまうのは問題です。石炭はあるけれど電力不足で行き詰まっている、という途上国はたくさんある。その発展のためにも、火力発電はまだ必要。ならば、CO2を出さない発電技術の開発にこそ投資すべきでしょう」

 そして、日本はその技術力で世界のトップを走る。なかでもJパワー(電源開発)による、半世紀を超える石炭火力の知見に基づく技術開発が目覚ましいと聞く。広島に、カーボンリサイクルも見据えたクリーンコール発電の開発拠点があるという。吉崎氏は早速、本誌取材班を伴い視察の途に就いた。

石炭「ゼロエミ」を目指す究極のクリーンコール技術

 安芸の小京都、竹原からフェリーで約30分。しまなみ海道を東に望む瀬戸内の離れ小島に、その拠点はあった。Jパワーと中国電力が出資する事業会社が、経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受けて進める「酸素吹き石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)実証事業」、通称「大崎クールジェンプロジェクト」の現場である。案内に立った相曽健司社長(当時)はこう話す。

 

 「石炭をガス化して燃やす石炭火力発電の次世代技術と、CO2を分離・回収する技術を組み合わせた、世界のどこにもない革新的なクリーンコール発電の実現を目指しています。クールジェンというのは、CO2をまったく出さない・ゼロエミッション・の石炭火力への道筋を描いた、政府の『Cool Gen計画』に因んだものです」

 石炭をガス化するのは発電効率を極限にまで高め、石炭の使用量とCO2排出量を大幅に削減するためだ。現状でも世界最高水準の発電効率を誇る超々臨界圧(USC)方式では、石炭を燃やしてつくる蒸気の力でタービンを回して発電する。これに対して次世代技術は、石炭と酸素から生成される可燃性ガスを燃やしてガスタービンを回し、同時にその排熱を使って蒸気タービンまで回すというダブル発電方式である。これにより、発電効率は従来の約41%が46~48%(送電端)となり、CO2が15%ほど削減できる。

建設中のCO2分離・回収設備。

 「実はこれはまだ実証計画の第1段階で、酸素吹き石炭ガス化複合発電(IGCC)といいます。これにCO2分離・回収設備を組み込んで、石炭ガスが燃える前に90%以上のCO2を取り出してしまう技術の実証が第2段階。現在は試験設備を建設中ですが、これを活用したカーボンリサイクルの検討にも着手しています。そして最後の第3段階で、CO2を回収する過程で発生する水素ガスを使って燃料電池までも動かすという、トリプル発電方式のIGFCへと展開していきます」

 IGFCに至ると発電効率は55%、USCに比べたCO2削減効果は30%に達するという。仮にこの技術を、石炭火力由来のCO2排出量が多い米国・中国・インドに導入すると、期待されるCO2削減量は年間約28億トン。日本の年間総排出量の実に2倍である。

 「ここまでくると、さすがに石炭のイメージも変わりますね。CO2の再利用も水素ガスの上乗せもスゴいけれど、石炭ガスの発熱量を上げるのに、わざわざ空気から窒素を取り除いて、酸素を吹き込むという手の込んだ発想がまたスゴい」(吉崎氏)

 「空気の約8割は窒素ですからね。この酸素吹きの技術によって水素などの可燃性成分が増え、水素利用の拡大につながります。また、IGCCと効率的CO2分離・回収技術の組み合わせは、脱炭素化の実現に向けたソリューションになるのです」(相曽氏)

 今年2月、第1段階は全試験項目で目標を達成して完了。第2段階の試運転を間近に控えつつ、3月からは第3段階にも着手した。ここまでの成果が評価され、2月には日本エネルギー学会の学会賞(技術部門)を手にしている。

Jパワーとカゴメが共同運営するトマト菜園。CO2再利用の活用が見込まれる。
微細藻類の光合成からのオイル生産もCO2用途の1つ。 写真を拡大