純国産の再生可能エネ
「地熱」のポテンシャル
毎年10月8日は「地熱発電の日」と呼ばれている。1966年のこの日、岩手県八幡平市の松川地熱発電所が日本で初めて商用の運転を開始したのに因み、日本地熱協会らが3年前に制定した。今年も、記念日前後には地熱への理解促進を図る各種イベントが賑わいを見せた。
JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)主催の「地熱シンポジウム」の一環で8月に行われた山葵沢地熱発電所(秋田県湯沢市)への見学ツアーもその一つ。運転開始まもない「国内で23年ぶりの大規模地熱発電」の姿を見ようと、親子連れなど多くの参加者が集まった。
日本有数の豪雪地帯で知られる湯沢市は、奥羽山脈の見えざる火山活動がもたらす豊かな湯の町でもある。その恵まれた地下資源をエネルギーとして生かすため、早くから地熱発電の開発が進められてきた。
岩手・宮城・山形との県境近く、山深い山葵沢の地で初期調査が始まったのは25年以上前。有望な地熱資源の存在が確認され、2010年にJパワー(電源開発)と三菱マテリアル、三菱ガス化学が共同出資で事業会社を設立。環境影響評価に4年をかけ、15年に建設工事を始め、今年5月、ようやく竣工を遂げたのだ。
地熱発電は、地中深くの地熱貯留層へ井戸を掘り、生産された高温高圧の蒸気でタービンを回して電気を作る。使った蒸気は冷やして熱水とともに地中に戻す、まさに純国産の再生可能エネルギーだ。
9本の生産井を持つ山葵沢の発電出力は約4万6000kW。一般家庭9万世帯分の電力に相当し、国内では4番目の規模。1万kWを超える地熱発電所は、96年運開の滝上発電所(大分県九重町)以来である。高低二段構えの蒸気圧で10~15%の出力増を果たす、国内3例目のダブルフラッシュ方式が採用された。
「地熱発電の開発には長い月日を要し、水力などに比べて出力も小さいですが、天候や季節に左右されずに安定的に電力を供給できる点は他の再エネにない強みで、ベースロード電源として期待されているのです」
Jパワー再生可能エネルギー事業戦略部の坂井勝氏はそう話す。
「地域共生」で前進する
電力のサステナブル経営
火山国の日本は米国、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源国だ。ところが、発電量では10位に後退。合計54万kWの発電量は資源量のわずか2%程度であり、強大なポテンシャルを生かせていないのが実状だ。そのため、「再生可能エネルギーの主力電源化」を謳う政府も地熱発電を後押しすべく、2030年までに発電量を3倍に伸ばす目標を掲げている(長期エネルギー需給見通し)。
事業者の取り組みも進む。水力・風力の発電量で国内2位のJパワーは中期経営計画で「再エネ拡大」を打ち出し、地熱も含めた新規開発で2025年度に100万kW増(2017年度比)達成を目指す。その推進役として、再生可能エネルギー事業戦略部が今年4月に発足した。総括マネージャーの鈴木智氏は言う。
「再エネの推進役として、部門を越えた連携を強化し、規模拡大と保守・運用の最適化を進めています」
一方、再エネ設備の開発・運営には地元の理解が最重要の課題となる。特に、地熱は近隣の温泉に影響しないことが大前提で、山葵沢でも温泉モニタリング調査を継続して実施。地元関係者と対話を重ね、動植物などの環境保全にも力を尽くす。「地熱発電は自然環境との共生、そして地域の理解なくしてはできない事業。地域の一員として、良好な関係を築いていきたい」と鈴木氏は話す。
実際、湯沢市では発電に加え、観光に地熱を生かす取り組みも進み、今年8月、JOGMECから地熱活用による産業振興のモデル地区に認定された。
国連のSDGs(持続可能な開発目標)は、本業を通じた社会課題の解決を旨とする。電力会社としてどう貢献するか。今回より連載で追う。
再生可能エネルギー
J-POWERの取り組み
J-POWER(電源開発株式会社)は1952年、戦後の電力不足解消を目的に発足した。現在、国内約100カ所にさまざまな発電所と亘長約2400kmの送電線を保有。水力発電と風力発電はともに国内第2 位の設備出力を持つ。2018年6月に再生可能エネルギー本部を新設。2025年度までに再生可能エネルギーの新規開発100万kW 規模(2017年度比で水力 3億kWh/年増、風力 25億kWh/年増)を目標に、設備更新や新規地点開発などの取り組みを強化している。
J-POWERグループの主な発電設備(国内)
84ヶ所 約904万kW
●水力発電所 61カ所 857.5万kW
●風力発電所 22カ所 43.9万kW
●地熱発電所 1カ所 2.3万kW
(2019年6月末現在 持分出力ベース)
進展する地熱プロジェクト
J-POWER ではさらなる地熱資源の開発に向けて、40年以上にわたり運転を続けてきた鬼首地熱発電所(宮城県大崎市)の設備更新を実施中。また、岩手県八幡平市で進む安比地熱発電所の建設にも参画し、宮城県大崎市でも新たな地熱資源の調査を始めている。