アメリカの大学の卒業式は一大イベントだ。その規模もさることながら多くの大学が著名なゲストを招き、印象的なスピーチをする。時には大統領が列席して時代を彩るような歴史的なスピーチをする場合もあり、5月初旬から下旬にかけてメディアでは各地の卒業式会場から発信されたニュースも多く報道されている。
5月24日はハーバードの卒業式だった。私は研究員の身分であるために卒業式は全く関係ないのだが、ハーバードの卒業式を見ておきたいという思いと、卒業式を見ることで、自分自身の心の中でも留学生活に一つの区切りをつけたいとおもい、朝からキャンパスに出かけてみた。
チケット制で人数制限も
ハーバードのあるケンブリッジ市は前日までの曇天から一転して快晴の天気に恵まれ、5月のさわやかな気候に包まれた。今年の卒業生は大学、大学院あわせて約7500人。これに加えて卒業生の両親や親族などが会場となるキャンパスの中心、ハーバードヤードに集結する。全体で2万人近くが集まるため、会場の雰囲気はロックスターの野外コンサートのようだ。
午前9時45分の式典開始の2時間以上前から学生や家族の入場が始まる。敷地内への立ち入りは厳重なチケット制で、入れるのは卒業生本人とほか2人までと厳しく限定されている。ハーバードのIDを持っているだけでは敷地に入れない。会場に通じる複数のゲートには警察官や警備員が配置され、入場者のチケットを厳重にチェックする。息子や娘、あるいはパートナーの晴れの日を一緒に迎えたいと世界各地から人々が集まってくる。みんなそれぞれ誇らしげな顔をしているのが印象的だ。
ラテン語や日本語を用いたスピーチ
私はチケットを持っていないので会場に入れず、式典の模様は会場近くの自分の研究所でインターネット中継で見た。会場は卒業生や招待客で埋め尽くされ、厳かに式典が始まる。ハーバードの卒業式では卒業生の代表がラテン語でスピーチする恒例行事があるが、男子学生が流暢なラテン語で、ユーモアたっぷりに学生生活の思い出などをスピーチすると、会場に設置された大型のテレビスクリーンに映し出される英語の翻訳をみながら時折、歓声があがっていた。
このほか印象的だったのは大学院生の代表、ジョナサン・サービスさんが挨拶に立った時、日本の俳句を引いてスピーチした場面だ。松尾芭蕉の「行く春や鳥啼(な)き魚の目は泪(なみだ)」を日本語でよみあげ、英語で解説した。芭蕉が「奥の細道」に旅立つときの思いを詠んだ俳句だ。ジョナサンさんが学び舎を巣立つ卒業生にむかって周囲の人に感謝の気持ちの大切さを訴え、あらたな旅立ちに向かおうと挨拶すると会場からは大きな拍手あがった。私も日本人として芭蕉の俳句が紹介されたことにとても感動した。